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迫りくる影

 俺は首を垂れたまま、主の声に聞き惚れる。  そうやって、慕情を隠す、悶々とした日々を過ごしていたある日のことだ。忍仲間から、『不穏な動き有り』との知らせを受けた。  これまでよりも警戒せねば、と俺は身を引き締め、任務に当たる。 「蒼殿は若様を好いておられるのですね」  侍女が善を持ち、朝餉を琥珀様の部屋まで運ぶ。  俺は琥珀様の支度が調うまで、隣接している部屋で主を待っていると、侍女が声を掛けてきた。  侍女は突然何を言い出すのだろう。  まさか、表情に出ているのだろうか。恐ろしい事実に、俺の身体から血の気が引いていく。 「ち、ちがっ、俺は単に、もっと気をつけてもらわねばと思って!!」  慌てて否定の言葉を告げると同時。目の端で刃が光った。  侍女が小太刀を懐から取り出し、俺に向けてきたのだ。  身体をひねり、なんとか一の太刀を避けることができたものの、体勢が崩れ、畳の上に倒れた。体勢を崩した俺の身体に跨り、侍女の刃が喉元を狙う。ダメだ、逃れられない。  死を覚悟して目を閉ざしたその時だ。 「蒼!!」 「えっ?」  琥珀様の声が聞こえたかと思えばすぐに身体が自由になった。閉ざした目を開けると、いつの間にか琥珀様の腕の中にいた。 「その者を取り押さえろ! 地下牢へ放り込め!! 自害せぬよう、しっかり轡をして固定しておけ、後に尋問する」  琥珀様の危機感を帯びた声に集まってきた従者たちに命じる古伯様の声はとても鋭く、城主としての役割を果たしていた。

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