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恋心
手から刃を引き抜かれ、俺の身体が琥珀様に包まれた。
刃物が簀の子に転がる冷たい音が静寂の間に響く。
「蒼が好きだ。だから、自決など無用だ」
「いけません、俺は忍頭で!!」
琥珀様の言葉は真実だろうか。
たとえそれが真実だからといって、甘えていいものではない。
だから俺は首を横に振り続ける。
「ならば俺のものになれ。傍にいてくれさえすればそれでいい」
「ですがっ!!」
「これは城主としての命令だ!」
琥珀様?
「っ、良いのですか? 貴方様に慕情がある以上、また同じ失敗をしでかすかもしれませぬ。役に立たない忍びなど、生きている価値はーー」
「価値ならならある! お前が側に居てくれるそれこそが俺の力の根源になるのだ。命危うい時があるならば、俺がさらに剣の腕を磨こう。蒼を守るまでだ」
琥珀様の指が俺の顎を掬う。
迷いのない鋭い双眸が俺を射貫いていた。
……ああ、主の言葉に嘘偽りは、何ひとつない。
確信した俺もまた、琥珀様の目を見る。
視線を重ねれば、どちらからともなく唇を交えた。
琥珀様と交わす接吻は、なんと甘美なものだろう。
唇が柔らかい。
俺は琥珀様に噛みつくようにして、唇を食む。
藺草の上に彼を押し倒し、琥珀様の後頭部を固定して口角を変える。
深くなる接吻は終わりなどない。俺は琥珀様の唇を味わい続けた。
もっと強くなろう。この御方のために……。
その日、俺は新たに決意した。
**忍び恋編・END**
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