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第5話

  「結局、縄編みの練習できなかったね………」 なんだかんだとバオバブの大樹の元まではきたのだが、ずびずびと泣いていたアルはいつしか眠ってしまっていた。ソレ以外にも、今朝方のフリードとの激しい営みもあったから仕方がないのだが。 つられてドヴェルグも寝てしまい、起きたら夕餉(ゆうげ)の匂いが漂う時刻だった。グルグルと鳴る腹に、今日のおかずはなんだろうと心はウキウキと浮きだしている。 「ああ。だが、今日の夕餉は芋と仔山羊の煮汁だぞ?」 アルの思考を先読みするドヴェルグは、自分が思った意見を述べた。 「ソレは、食べる価値があるよね………」 アルも同意はするが、その先の意見を目線で示した。 折角きたのだから、少しでも縄編みの練習はしておきたい。 だが、アルは不器用だ。上手く樹皮を剥くことも、裂くこともできない。当然、縄を編むのもできなかった。 「じゃ、樹皮だけ剥いで持って帰るか?」 バオバブの大樹をみて、ドヴェルグはその先の意見を求める。 そう、裂いて編むのはココでなくともできることなのだが、アルのあまりの不器用さに皆が手伝うのだ。 アレよアレよと縄はできるが、アルの縄編みの練習にはならない。 大方、いや、粗方、大いに、殆ど、ああ全部がやって貰うことになる。当然、樹皮剥ぎも、ドヴェルグがやることになる。 「止めとく」 アルは首を振った。ドヴェルグにコレ以上迷惑をかけるワケにもいかないから。 ソレに、帰りが遅くなったらフリードも心配するだろうし。誕辰を祝ってくれるという若い狼たちにも、悪い。 ドヴェルグは小さく息を吐く。 大地のはるか向こう。徐々に紫がかってきた昊を背景に、アルは立ち上がって歩きだした。ドヴェルグも立ち上がって、その後を歩く。 風に乗って、夕餉のいい匂いが鼻に届いた。久し振りの肉だ。コレは、是非にも胃袋におさめたい。 そして、ずるりと傾く視線に思わず、大きな声が上がる。 「───えっ!」 「うあっ!」 アルの声に返して、ドヴェルグが慌てた声を上げた。 身体が宙を浮く感じがしたら、急落下する。どしんという大きな音がしたからには、やっぱりそうだ。痛みはないのだが、そうなのだ。 痛みがなかったのは、お尻に敷いたふかふかの毛のお陰。 ソレにしても落下が長かったと辺りを見渡すアルは、声を失う。 「………………っ!」 アルの身丈よりも大きいドヴェルグに目を向けた。 「────ドヴェルグ?」 「ああ、なんだ? ん、そんな顔すんなよ」 見馴れない顔に驚いているのかと思えば、そうではないようだ。ドヴェルグも辺りを見渡して目を見開く。───ココ、どこ? ドヴェルグは狼だから、真っ暗な闇でも目が利く。だが、アルは違った。 「真っ暗で、ドヴェルグの顔しかみえない」 「だよな」 溜め息を吐き、頭上を見上げる。 落ちてきた穴はみえるが、ソコに登っていく手段がない。ドヴェルグだけならなんとかなりそうだが、アルがいる。 「コレじゃ、よじ登れそうもないな」 別の手段を考えようにも、今は腹が減って動けない。アルも同じようでドヴェルグの上から退こうとしない。 ぐ~っと鳴る腹に、さっき嗅いだ夕餉の匂いがまた腹の虫を鳴らす。 ぼんやりと残る記憶の欠片から昨夜、食べ残した揚げ物の芋虫を喰っておけばよかったなどと思うのだった。 ココで大人しく待っていた方がと思っても、あの穴に落ちたとは流石に思わないだろう。 「………アル、………動けるか………?」 動ける内に動こうとアルをみれば、肩を震わせていた。 「アル、大丈夫だ。俺がいる」 その肩を掴んで揺らして、ドヴェルグは声をかけた。 「───ゴメン、腰が抜けて動けない………」 心配するドヴェルグに、アルは顔を赤くしながら呟いた。 「そうか、ソレは困った───」 ドヴェルグも唸るように呟く。 今、冷静に考えたらこの状況というよりも、この体勢はかなり厳しいモノがあった。馬乗りになったアルは物凄く重い、と。 普通の若い狼なら、間違いなくアルを襲っていただろう。 だが、ドヴェルグはまだまだ餓鬼だった。恋のいろはは知っていても、大人のいろははまったく知らなかった。鈍いというか、初々しいというのか、接吻で子ができると思っているし、その子は(こうのとり)が運んでくると信じているのだから。 そして、フリードがドヴェルグにアルを任せている理由もソレが大きい。若いあの狼はいつアルを襲うか気が気でなかったのだ。  

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