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第6話

  さて、夕餉の時刻にもなっても帰ってこない2人にフリードは、苛立ちを隠せないでいた。 「もう、そう焦慮(しょうりょ)しないの」 ジャリードが凄い剣幕のフリードに、芋と仔山羊の煮汁を手渡す。奪うようにソレを受け取って、飲むように大きな口に流し込んだ。 若い狼たちも気が気でない様子でその光景をみながら、ジャリードに渡された芋と仔山羊の煮汁を口に流し込む。 「ちょっと、アンタたちまで──」 「しかし、ジャリード様!」 若い狼たちはいきり立って、立ち上がった。 「アル様がこのまま帰ってこなかったら、どうするんですか!」 「………………(ああ、そうだ。このままアルがみつからなければみなかったことにできるかもしれない。いや、知らなかったことにもできるハズだ。あー、いやいや、ソレは余りにも非道過ぎるだろう? お前は煮ても焼いても腐っても鳥族の長(・・・)なんだぞ? 御者は兎も角、従者(ソーカ)はどうする? この荒れた大地(路頭)に迷わすつもりなのか? 糞、あの莫迦さえ六根清浄(ろっこんせんじょう)にならなかったらこんな苦労もなかったのに!)」 声も高らかに絶叫する若い狼たちを唖然とみていたジャリードは、すぐ傍で静かに憤激(ふんげき)しているショウビに尋ねた。 「ドヴェルグも一緒だったですよね?」 「………ああ、ええ、昼間、大きな大木の下で一緒に昼寝をしていましたよ」 急に話を振られて、内心焦るショウビだったがそう動じずに応えられた。が。 「な、ソレは本当か!」 フリードは毛むくじゃらの手を伸ばすと、ショウビの胸座(むなぐら)を掴んだ。 アルの安否を心配するどころかその真逆なことを考えていたショウビは、心を見透かされたのではないかと大いに慌てる。 「は、はい!」 声まで裏返って、心臓が早鐘のようにガンガンと打ち鳴らされていた。 フリードの顔が凄く歪んだ。 「彼処は、今年の大雨季で地盤が陥没して空洞化している場所があるんだ」 頭をガシガシと大きな爪が伸びた手でわしゃわしゃと掻き廻しながら、フリードは困ったような顔をしている。あるんだといいつつも、ドヴェルグとアルに伝え忘れていたようだ。 この1週間、こんな困った顔をしたフリードをみたことがないソーカは、物凄く面白そうな顔でソレをみていた。 「ソーカ、そんな愉しげな顔をしないでくれないか? 私の存命がかかっているんだよ?」 ショウビはソーカをみて、肩を落とした。 他人事のように目をすがめたソーカは、ゆっくりと口を開いた。 「ソレでは、私がみて参りましょうか?」 ソレを聞いて、若い狼の片割れが驚いたように首を傾げる。 「えっ? 鳥族は鳥目では?」 「ああ、彼女は(ふくろう)なので夜の方が慣れているんですよ」 掴まれた胸座を離して欲しいショウビは、そう穏やかに答えるが、手は大いにフリードの手を叩いていた。 心穏やかではないフリードは手に力が入っているから、そんじゃそこらの叩きではまったく気づかない。 そして、ソコにもう片割れの若い狼が会話に割って入ってくるから、なおのこと、ショウビの要望は前送りになっていた。 「もしや、昨夜の夕餉にでてきた揚げ物の芋虫はソーカ様の好物ですか?」 基本、狼人は芋虫は食べない。ソレなのに、料理としてでてきたことに不思議に思っていたらしいのだ。 「いえ、私はどちらかといえば、鼠や兎の方が好みです」 食べないというワケではありませんがと、ソーカはちらとショウビの方をみる。 「────あ、すみません。私の好物です」 「へ~、そっすか」 若い狼は飛びついて損したとばかりに席に座り直して、ジャリードにおかわりをよそって貰おうと器を渡していた。 重たい空気が更に重くなり、自分のおかれている立場を優先するよりも先に、ショウビは静かに命を下す。 「………ソーカ、早くいってらっしゃい」 「承りました」 いわれるままに、ソーカはバオバブの大樹の元へ向かった。 残されたショウビは、まだフリードに胸座を掴まれたままだった。 「………………フリード様、手を──」 その言葉を聞いたフリードは眉を寄せる。 「ん? どうした?」 ギロっと頭上から睨みつけられて、ショウビは凍りつく。 「いえ、何でもありません」 「そうか、早く帰ってくるといいのだが」 どちらのことをいったのかは、大体は検討がついているが、ショウビは口を閉ざす。ジャリードは溜め息を吐いた。 「部族長が、何ビビってんのさ。まったくアンタは目先のことしかみえてないんだから」 胸座を離して欲しいといえないショウビと、物凄く苛立っているフリードを交互にみて、何気にソーカの気を惹こうとした若い狼のちょうど間に入っているジャリードは、いいたいことをいう。 「アンタたちもアンタたちだよ。解っていたんなら、さっさとみてきな!」 軽く尻を叩いて追いだすジャリードは、ショウビにも助け船をだす。 「フリード、いい加減その手、離しておあげなよ」 フリードはジャリードの目をじっとみた。 ショウビは、ごくりと息を呑む。 「ああ、忘れてた………」 「わ、忘れてたって───」 「何だ? 悪気があってのことじゃないだろうが?」 ギロっと睨むフリードの威圧に凄んだショウビだったが、漸く胸座を離して貰ってやれやれと胸を下ろしていた。 「はい、そうですね。離して貰ったので異論はありませんよ」 ショウビは溜め息を吐いて、座った。ジャリードに芋と仔山羊の煮汁のおかわりを勧められたが、心配事と悩み事と恐怖で胃はキリキリと縮小していて断った。 ソーカが戻ってくる間も胃への圧迫は治まらないだろう。何事もなく、ひょこっとあの2人があの簾から顔を覗かせてくれたなら、もっと幸いなのだがと、さっきとは打って変わった都合のいいことを考えていた。 ジャリードは若い狼が食べ終えた器を片付けるために、外にある井戸へ向かった。 静まり返った室内が更に静まり返って、落ち着かない。ショウビは、正面に座しているフリードをみた。 流石にこの重い空気での無言は堪え切れず、当たり障りのない同じようなことをいう。 「………遅いですね?」 黙りだったフリードはギロっとショウビを睨むと、険しい顔をした。 「ああ、そうだな」 「………2人とも、お腹を空かせていなければイイのですが………」 「ああ! そうだな!」 フリードは更に険しい顔をさせた。 獣人の食事は日に2度。朝と夕だけだ。間食もなく、喰ったら寝るの二拍子。狩りと食事以外は大抵寝ていることが多いからだ。 「ひっ! す、すみません、黙ってます」 自分で会話を投げておいて、ショウビは身を縮めた。 「ああ!! そうだな!!」 恐ろしくってもうフリードの顔がみれない。既に冷めた芋と仔山羊の煮汁を匙で掬って食べていて、ショウビは気づく。こうして、1対1で話したのは初めてであった。 そして、ソーカの凄さを改めて知らされるショウビだった。 「………………」 「………………」 「………………ボソ」 匙を咥えたまま、ショウビは瞬きをした。今なんていった?とは流石に聞けず、視線を合わせたら、フリードが目を反らして応える。 「………………何か喋ったら、どうなんだ?」 「………………えっ?────えええええっ!」 凝視して、ショウビは飛び退く勢いでフリードのことをみた。ソレから、ショウビよりも5歳も年下だったことを思いだし、気遣って欲しかったのかと笑いが込み上げてくる。 そうなると、行動の1つ1つが可愛く思えて目尻が下がった。 「ああ、そうだね。歩み寄らないと解らないこともあるよね」 自然と敬語も取れて、素直に頷いていた。 「アル様とドヴェルグ、無事だとイイね」 自分の立場やそういうのをまるっと投げて、ショウビは心の底からそう思った。 フリードは些か不機嫌そうな顔をしたが、腕を組んで椅子の背(もた)れに身体を預けた。 「ああ、そうだな」 「ソーカも………」 ショウビが言葉を続けようとしたら、簾から勢いよくソーカが入ってくる。 「大変です。ショウビ様、フリード様、アル様とドヴェルグが無事に帰ってきたのですが、アル様がドヴェルグの上に乗っていました!」 ソレを聞いてガバッと立ち上がる2人だが、フリードは円卓をさっと飛び越えて外に飛びだしていた。 「えっ? 早っ!!」 「フリード様、2人は広場にいますよ」 フリードの背に向かって叫ぶソーカは、ニチャリと嗤っていた。 ほくそ笑むソーカも気になるが、ソーカがいった言葉の意味も気になる。 「ちょっ、ソーカ、どういうことだい!」 簾をくぐり抜けながら、ショウビは詳細を聞こうとしたら、物凄い音が聞こえた。  

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