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第10話
ふんふんと、鼻息の音が響いている。
ジャリードの肩口からとりゃと飛び降りたドヴェルグは、地面に倒れ込んだショウビを背中に担いで自ら部屋に戻った。
「………ショウビ様、シュバシコウ様、コウノトリ様!!」
どうか、どうか、アルに子を授けて下さい。
神仏を崇めるように、ドヴェルグは必死になって酔い潰れたショウビにお願いをしていた。
壁に凭れて大あくびをするソーカは、物凄く面白い光景だから黙視している。
ジャリードは、目を廻したショウビのために水を持ってきているようであった。
アルは当然、フリードの部屋に初お泊まりで顔を引き吊らせていた。アレもアレで愉しそうだったが、こっちの方が面白そうだったから保護者面をしてついてきたが、肝心なショウビがなかなか目を覚まさないからソーカは少々退屈になってきていた。
早く目を覚まさないかなぁと、丑の刻も廻りそうな時刻に眠気を噛み殺す。
ドヴェルグは昼寝をしているから、眠気など何のその。
是非とも是非ともと拝み倒すドヴェルグは、ソーカには解らない呪いの言葉で、何かいろんなことを祈願していた。
やがてジャリードが戻ってきた。
「なんだい、まだやってたのかい?」
頷いたドヴェルグは、ジャリードから水が入った器を奪ってショウビに飲ます。
「ショウビ様、お水です。さぁさぁ、ぐいっと飲んで下さい!」
開かない真っ赤な嘴を無理やり抉じ開けて、ドヴェルグは水を流し込んだ。当然、ショウビは噎せる。
「ぐぁはぁ、ぐぉごぉ、げぇごぉ!」
「おお、目を醒まされましたか! では、もっと!」
「ドヴェルグ、お止め。死んじゃうわよ」
冷静に口を挟むジャリードにドヴェルグははっとして、手を止めた。
綺麗なお花畑がある川にいる、そんなショウビの姿を想像する。ダメだ、ダメだと首を大きく振った。
まだ、アルの子を運んできてくれていない。
悄然 と肩を落とすドヴェルグをみて、ソーカが肩を小刻みに震わす。
生死をさ迷うショウビが面白いのではない。未だに、鸛が赤子を運んでくると信じているドヴェルグのことが可笑しいのだ。
ああ、何て初々しいのだろう。
「ドヴェルグ、いいことを教えて上げましょうか?」
突如、語りだしたソーカに、ジャリードは嫌な予感しかしない。
「ソーカ様、何でしょう?」
ソーカは何度か頷き、こう語る。
「赤子を運んでくるの は雌なんです」
ドヴェルグははっと息をしてわしゃわしゃと首の辺りを後ろ足で掻き、キョロキョロと辺りをみてから、袿の中に頭を隠す。
尻尾は袿の外にでているからまったく隠れた内には入らない。
「ソーカ様、今までのことはみなかったことにして貰えませんか?」
ソーカは暫く黙りを続けたが、ちらちらと袿から鼻先をだして覗きみるドヴェルグが可愛そうになり、頷いた。
「構いませんが、アル様との約束はどうされるのですか?」
ドヴェルグの身体が強張る。ココにいるの雄であって、雌ではない。
長い尻尾が小刻みに動く。思案をしているようだがよい案が浮かばないらしく、ガバッと袿を跳ね退けてソーカの方をみた。
「ソーカ様、どうすればよいでしょう?」
アルと約束をした手前、やっぱりダメだったとはとてもいえない。フリードだって、物凄くがっかりするに決まっている。
ソーカは真剣な趣のドヴェルグに、こういうのであった。
「そうですね。ショウビ様に奥方を迎えるようにいってはどうです?」
ショウビ様の奥方様ならきっと何とかして下さいますよ、と。
爛々と目を輝かすドヴェルグに、性のいろははまだ早いかとジャリードは溜め息を吐いた。
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