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第11話
いつもいつも忙しく走り廻っているフリードをみているだけで、寂しい思いをしていた。
だが、今、アルはそのフリードの自室にいるのだった。
アルはフリードに愛されてはいるが、基本は通い夫で、彼の自室に入るのはコレが初めてであった。
緊張した顔で身体は強張っている。そう、妻の方から夫の家屋に入るのははしたないこと。お呼ばれしたなら別の話だ。寵愛モノだ。
薬師やジャリードには意に沿わないことだろうが、今は独り占めしていたかった。もうこの先お呼ばれはないかもしれないからだ。
とはいえ、まだまだ発情期がこないアルには仕切りが高い聖地だった。
そわそわと落ち着きのないアルに対して、フリードは漸く今日という日がきたことを物凄く喜んでいた。アルが18歳になるまではと自身に歯止めをかけていたフリードは、コレで解禁だと諸手を挙げていたのである。
コレからは毎晩でもアルを自室に呼べることを喜んでいるフリードは、上機嫌でアルに茶 を勧める。
「ほら、飲め、アル」
「う、うん!」
両手で受け取るアルの姿に、目尻が下がる。ふうふうと器に息をかけて冷ますが、山羊の乳が入った茶は簡単には冷めない。
顔を真っ赤にして息を吹きかけるアルは、早く飲んで感想を述べないとと慌てていた。
アルの正面で様子を窺っていたフリードが、やがて器に口をつけるアルの手からその器を取り上げて飲んでしまう。
その代わりにとフリードに渡された彼の器はまだ熱かった。
「………え?………え?………え!」
肩を震わせて混乱するアルは、兎に角、冷まさないとふうふうと息を吹きかける。
フリードはご満悦だった。
「………アル、コッチみろ」
視線を上げならフリードをみるアルに、彼の手が差し伸ばされてくる。垂れた前髪を掻き上げられて、頷かれた。
「ああ、やはり、コッチの表情の方が愛らしいな」
今のこの状態でふうふうしてくれというフリードに、アルは固まる。
嫌なワケではないのだが、こうもじろじろとみられてはふうふうとしづらい。フリードの格好良すぎる姿が目の前にあって更に困るのだ。
視線をフリードに向けたままゆっくりとふうふうと息を吹きかけるアルは、心臓が持たないと涙目になっていた。
「ん? どうした?」
「ドキドキしすぎて、心臓が今にも口から飛びだしそう」
「ああ、ソレは困った」
アルは上顎を毛深い指に掴まれて、優しく口づけされる。
「………………っ!」
「コレで、心臓は引っ込んだか?」
「………ぇえ、はぃ………」
吃驚しすぎてソレどころではない。だが、フリードの折角の茶を飲まないワケにいかない。
アルは必死にふうふうと息を吹きかけ、ずずっと茶を啜る。
甘い優しい味に心が解れた。
「ぁ~ん♪ おぃひ~♪」
ほっこりと茶の感想も述べて、コレでこの熱い視線からも開放されると思ったら、そうでもなかった。茶を飲んでいる間、ずっとフリードにみられていた。
「ぁ~ん♪ おぃひ~? って、アルは可愛いな♪」
俺の息子を口で愛撫してくれるときの声だと口許が緩み、厭らしい。そして、こんな意地悪なフリードをアルはみたことがない。が。
「………フ、フリード様も、格好イイょ………」
オレの中で気持ちょくイっているときの顔でますます惚れそうと、両頬を押さえる。アルも相当フリードに毒されている。
「ん? そうか? だらしない顔をしていると思ったが」
フリードは自分の口許に手をあてて、顎の辺りを何度か撫でる。
「フリード様は何しても、格好ぃい………」
「ん? そうか?」
今朝方のように朝まで愛し合おうと、アルが持っていた器を取り上げ、フリードはそのまま押し倒した。
床板にはもう寝床ができていて、ふたりを迎い入れるだけだった。
フリードの自室がある家屋のちょうど真向かいにあるアルの自室がある家屋から、ショウビの悲痛にも近い声が聞こえたが、フリードは知らない顔をしてドヴェルグに託すのであった。
あの歳で鸛の話を信じる初なドヴェルグには悪いが、もう時期、発情期がくるアルの面倒をみる必要があるんだ、と。
アルの首に巻かれた布を取り、今朝方、噛んだうなじに口づけをする。
番になれば、発情期の症状も少しは緩和されるというし、可愛いアルをあんなひ弱な鳥人に連れていかれるモノ癪であった。
長年コツコツと積み重ねてきた苦労をあっさりと奪ってたまるかと、銀色の狼はギラギラとした目で、アルを隅々まで可愛いがり、ひつこくねっちこく愛した。
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