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第48話 アサの思い出
目の前に立つ店主を通して、あの宴の日に楽しそうに笑っていたお父さんのことを思い出す。
家で待っていたお母さんだって、僕が帰ってこなかったことを悲しんだだろう。
お父さんと喧嘩にならなかったかな。
お母さんは口げんかが得意なんだ。
言い合いになったら最後にはお父さんが謝る、それが日常茶飯事だった。
愛犬のナナは僕のことを覚えているだろうか。
毎朝学校が始まる前に散歩をするのは僕たちの日課だった。
寂しがって泣いていないといいけど…
懐かしい風景が頭に浮かび、涙が視界を塞いでいく。
当たり前の日常に僕は「幸せ」だと思うことなんてなかった。
それが普通だったし、このままずっと日常生活が続いていくものだって思っていた。
でもそれは、突然終わりを告げ、船での生活が僕の日常生活となったんだ。
どちらかを選ばなくちゃいけない。
帰りたいのかな。
僕は島に帰りたいのかな。
「明日の朝7時に出港するからな。波止場に6時45分までにおいで。その時間を過ぎたら待てないからな」
「わ、わかりました。ありがとうございます…」
「心配無用だ。島のもんは皆家族だからな。親御さんもお前さんが帰ってきたらたいそう喜ぶことだろう」
「は、はい!」
複雑な気持ちに包まれていたけど、僕は家族に会えるかもしれないという希望に心を躍らせていた。
難しいことは考えたくなくて、チクチクと痛む心を無視して僕は笑顔を作った。
「いい笑顔だ!その調子でな!また明日!」
僕たちが着物を買うためにこの出店に来たわけではないことが分かった店主は、奥の方へと消えて行った。
明るい声にこたえるように僕も笑顔で手を振り返し、足元を見つめた。
でも、その時は知らなかったんだ。
僕たちの言葉を理解できないニールが辛そうに顔をしかめていたことを。
言葉が通じないということの難しさが人を傷つけるってことも。
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