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第95話 ショーンの心配事
「ケン、コ、レ……ドウゾ」
「わーい!!ありがとう!ねえねえ、ショーン見て!この紙の鳥、アサが作ったのぉ!!!」
アサの隣に座りニコニコと笑うケンはいつも通りだ。
元気な声、大きな笑顔、興味津々に動く瞳。10年間、傍で見てきて特に何を意味するものでもなかったはずなのに。
最近となっては悩みの種なのだ。見てるだけで何とも言えない気分になるのだから。
「これはすごいですね、アサ」
「スゴ、イ?」
「ええ、1枚の紙から作ったものですよね?」
「そおおおなのお!見て、こうやってこうやってこう!」
「ケン、チ、ガウ……」
「えええええええええ????!!違うの?」
ケンと初めて出会った日を思い出しても、特別な日ではなかったはずだ。15歳になって初めて就いた仕事場に船長が連れてきたのが、当時8歳のケンだった。
それからずっと、ほぼ毎日生活を共にしているけど、それは他の船員にも言えることで。
だからケンが特別、というわけではないはずだ。どこで、自分の気持ちに変化があったかなんて、自分でも分からない。なんでこんなにもグルグルと悩んでいるのだろう……
なんで、と言うか、何に悩んでいるのかも良くわからない。
ソファーに座りアサと会話をするケンに目をやるといつもと違うことに気が付いた。
「ケン、顔が赤くないですか?」
「え?そう?そうなの?!アサ、僕の顔赤い?」
「ン??カオ……?」
「ちーがーうよー!それは足でしょ!顔はここ!」
「ア、ウ……ン、カオ、ココ」
「赤い?」
「アカ、イ?」
「そうそう!赤はねー、リンゴみたいな色!」
「リン、ゴ……?」
「ケン、アサにリンゴを教えましたか?」
「まだっ!」
「それでは分からないですよ」
自分の悩みやモヤモヤしたものを無視して、しっかりとケンを見つめるといつもより顔が赤い。熱だろうか、めったに風邪をひかない、元気の塊みたいなこの子でも熱が出るのだろうか……
「ちょっと失礼しますよ」
「ひゃっ!びっくりした!ショーンっ、手がすっごく冷たいよ!」
「いえ、私の手が冷たいのではなくケンの体温が高すぎるかと」
「僕、熱?」
「そうみたいですね、具合が悪いとかないですか?」
「んー……ちょっとほわほわするけど、それだけ!食べすぎたのかなって思ってた!!」
「ほわほわ……ですか」
私たちのやり取りを見ていたアサが真似てケンの額に手をやる。はっとした顔をこちらに向けて、うんうんと頷く様子をみると、会話の内容を理解したようだ。
本人は、と言うと……全く熱が出ていることに気づいていなかったようだが、一度部屋に戻したほうが良いだろうか。
「ケン、部屋に戻りますよ」
「えーなんでー!僕元気だよー!」
「熱が出ているんです!仕事に支障が出ると困るのと、他の船員にうつるものだと大変なので、部屋で大人しくしていてください!」
「大人しく?!ええええええ僕大人しくできない!」
「早く!」
「はーい」
残念ながら看病に良い思い出はない。
でも、あれはだいぶ前の話であって、今の自分はあれから成長したはずだ。
兎にも角にもケンを部屋に戻さなくては。
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