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第96話 ニールは掃除中

「くっそ、なんでこんなに埃っぽいんだよ」  所謂、時間外労働だ。仕事をサボった罰に倉庫を掃除しろなんてふざけた話だ!と抗議したいところだが、自分の欲に負け、サボってしまったのは事実なわけで……  大人しく船長に言われた通り掃除をしている。もちろん、当直後にだ。仕事は仕事でしっかりとやらされた。 「ん?」  コンコンと控えめなノックが聞こえる。  野郎ばかりの船で”控えめ”なことをする人間なんてアサくらいしかいない。 「アサか?入ってきていいぞ」 「ニール」 「そこ、足元に気を付けろ」 「ン……」  こんな埃っぽいところにアサを招くなんて正直なところ気が進まないが、アサの可愛い顔を見れるならはっきり言ってどこでも天国に早変わりだ。 「どうした、アサ?大丈夫か?」 「ボク、ダイジョブ……」  ぎゅっと抱きしめると艶々の黒髪が俺の頬を擽った。少し前にあげたバレッタをアサは毎日使ってくれる。髪を束ねることで透き通るような肌と美味しそうな首筋が余計目立つ。他の奴らにも見えるのか、と思うと良い気分ではないが、眼福なのには変わりない。 「ケン、ダメ」 「ケンがダメ?どういうことだ?」 「ン……エット……」 「ゆっくりでいいぞ」 「ウン、ケン……コレ」  小さな手のひらが俺のおでこに触れた。  ケンが、ダメでおでこに手……アサとの会話はほぼ毎度、謎解きのようで楽しい。 「ケンが……あ!もしかして熱か?あいつ風邪ひいたのか?」  うんうん、とアサが頷くと髪がさらさらと揺れた。 「ショーン、ン…、ト……」  言葉を思い出そうと焦っているのかアサが手を動かしながらあわあわと口を動かす。  ケンが熱で、ショーンも熱ってことはないよな、さすがに。ということは、ケンが熱でショーンが…… 「あいつが看病してんのか?」 「ン?」 「アサ、ショーンはどこだ?」 「ケン、ノ、ヘヤ」 「なるほど」  予感が的中したようだ。  で、何でアサがここに来たか、だよな。ショーンが看病しているなら問題はないだろう。それが問題でない限りは。 「ショーンは大丈夫か?」  アサが知っている言葉で訊くと俺の腕を掴んでいたアサがふるふると頭を振った。 「そうか、あいつらしくないな」 「ン…?ナニ?」 「大丈夫だ。ケンの部屋に行くぞ」 「ワカッ、タ」  少しくらいここを離れても怒られないだろう。いや、もし怒られたとしても謝ればなんとかなるはずだ。ケンの様子を見て戻ってくるか。 「アサ、こっちにおいで」 「ンン?」  この部屋を出る前に、数秒くらいアサの唇を味わってたって大丈夫、だよな。

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