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第98話 ニールのお見舞い
「え、船長も来るんですか?」
「俺が来ちゃ困るか?」
「いや、船は……?」
「当直の奴がしっかりやってっから大丈夫だ、お前と違ってな」
「大分引きずりますよね」
「こーでもしなきゃ暇だからなー船生活は!」
ガハハハッと笑った船長をアサが不思議そうに見上げた。
なんでこうなったんだか意味不明だが、俺たち3人は一緒にケンの部屋へ向かっている。
「ショーンは何でもできるのになー。看病くらいで慌てるなんてらしくないよな」
「ああ、確かに。顔色1つ変えずにケンの面倒見そうなイメージですけど」
ケンが熱ってのも珍しいがショーンが慌ててるってのも珍しい。
このまま行ったら嵐で竜巻でひょうが降り出すとか、予想不可能なことがおこるんじゃないか?
「おい、ケン、入るぞ?」
ノックくらいしろよ、と船長のほうを見たが、その時にはすでに扉を開いていた。
この人には常識とかなんとかってもんが備わってないらしい。いや、確かに昔からそうだったかな。細かいことを気にしない性格なんだよな。
「ア……!」
俺らの後ろについて来ていたアサが小走りでベッドへと近づいた。
真っ白な船配給のシーツと掛け布団の山の中にケンの髪がちらりと顔をのぞかせている。
いやいや、いくら病人だからってそんなに布団かけたら熱いだろ……
「おい、ショーン大丈夫か?」
「ニール!あ、船長も!いや、それが寒いって言って暑いって言って、汗かいているのに指先がすごく冷たくて、でも額に触れると火傷するほど熱いんですよ。どうしたらいいか分からなくて、倉庫から掛け布団などお借りしてしまったのですが、それでも、」
「深呼吸だ」
「え…」
「何にパニクってるか知らねーけどお前が落ち着かないと困んだろ」
「は、はい」
慌てているところを茶化してやろうと思っていたが、想像以上の慌てっぷりにそうするわけにもいかなくなってきた。
「ケン?ダイジョ、ブ……?」
「アサ?ん、なんか重い……」
「オモ、イ?ニール?ショーン?」
「おい、ショーン、重いって言ってるぞ。布団の数減らせ」
「分かりました!ケン、すみません、どうしていいかもわからずに」
「ショーン……?」
いつでも声のデカいケンが静かにしゃべっていると調子が狂う。苦しそうに口を開く様子は辛そうだし、顔も赤いし汗もひどい。それに加えて、顔を真っ青にしてバタバタ動き回るショーンもいて……はぁ、何だか見てるだけで疲れる状況だ。
「おい、ショーン」
「はい、船長。ご迷惑をお掛けしてすみません」
「いや、俺はお前を笑いに来ただけだ。気にするな」
「え、」
「そんなことよりな、水とタオル持ってこい。ただの熱なら寝れば治んだろ。冷静になって考えろ」
「でも、」
「水とタオルだ」
「はい!」
熱に苦しむケンの手を握ったアサは心配そうにケンを見つめると「大丈夫」と繰り返していた。山のように掛け布団が積まれていたケンの上には今、2枚ほど布団がかかっている。枕の傍に置いてあったタオルでケンの額の汗を拭いたアサは、船長と俺のほうに視線をやった。
「ケン、ダイジョブ?」
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