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第99話 ショーンは看病がトラウマ
「ええと、落ち着いて、シーツとお湯…じゃなくて、タオルとお水を持って行かなくては」
勢いでケンの部屋から出てきたのはいいけれど、未だに頭がいつも通りに回っていない。
私らしくないなと、何度も船長やニールに言われたのは聞こえていた。必要以上に取り乱しているのも自覚している。
落ち着け落ち着け、と自分に言い聞かせても、逆効果しかなくて余計に空回りし始めた。
何度か躓いた気がするし、ケンに何を言ったのかも覚えていない。
看病が苦手なわけではない。看病に慣れているか、と言えば残念ながら肯定だ。
ただ、トラウマになるほど看病の二文字に良い思い出がないのだ。
洗濯物がしまわれている棚へ向かうと、船配給の真っ白なタオルやシーツが雑に並べられている。普段だったら、最後に選択を担当したものが誰だったのかを探しだして、説教でもしないときが済まないのだけれど……今はそんなことも気にならない。
早く、タオルを、そして水を……
水は、何で運べばいいんだ?
「も、戻りました!」
「ショーンか。だいぶ時間かかったな。ケンは今眠ったとこだよ」
「ありがとうございます、ニール」
「礼を言われるようなことはしてないがな」
「あ、そ、そうですね。船長は?」
「仕事に戻るとか言ってたぞ」
船長は仕事中だったのか。船員一人が風邪を引いたくらいで見舞いに行くような人ではないが、ケンの育ての親のような存在だ。やはりケンは特別なのだろう。
「お前の慌ててるところを笑いに来ただけだって言ってた」
「え?」
「船長が、だ」
「趣味の悪いことを」
掛け布団を2枚ほどかけたケンは大人しくベッドで眠っている。
慌てふためいた私がかけた掛け布団は5枚くらいだったようだ。今となっては床の上で山を作っていた。どう見ても掛け布団7枚は重すぎだろう。
ああ、誰の部屋からどの掛け布団を借りたかなんて覚えてもいない……後で適当に戻してしまえば大丈夫だろうか。
船長に言われて持ってきたタオルを、慌てて厨房で借りた鍋に入れた水に浸し、ケンの額にのせると小さな体が身じろいだ。
首筋に指をあてると、未だに熱すぎる体温が伝わってくる。
「ケ、ン……ダイジョブ?ネ、ツ?」
「ええ、熱だけだと良いのですが」
「ダケ……?」
「心配するな、アサ。ケンのことだ。明日には元気いっぱいになってる」
「それを願います」
「珍しく弱気だな、お前。さっきの取り乱し方も、らしくねえぞ?」
「あれは……失礼しました」
「謝らなくていいけど、何があったんだ?」
「話すほどのことでもないので」
気まずい空気と、ケンの苦しそうな呼吸が部屋に広がった。
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