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第119話 ニールは耳を傾ける
「重い話になってしまう」と前置きしたショーンは俺の目を見ずに話を進めた。
口を挟む瞬間が見つからないほど勢いよく語られる話に、俺はうなずくことしかできなかった。
「彼女は昔から軟弱だったのですが、流行り風邪にかかってそこから段々と状況が悪化していきました。それに気づいた頃にはもう手遅れだったのです」
幼馴染だったという。小さな町で生まれ育った二人の誕生日は1日違いで、気がついたらいつも一緒にいたのだと。
「1件しか医院がないような小さな町でした。風邪を引いて1週間目、そろそろ熱が下がってきてもいいだろうと、彼女の両親も口にしていました」
その時二人は17と幼いながらに、互いを恋人と認識し誰よりも愛し合っていたのだと、ショーンは苦い笑いをしながらつぶやいた。
「誰でも風邪は引くものですし、私も熱を出したこともあったので、楽観的に見ていました。数日間寝ていれば元気になるだろう、暖かくしていれば大丈夫と」
大きなため息が床に落ち、間を入れずに喋っていたショーンが天井を見つめた。涙を堪えるような仕草だと思い、俺は視線を外した。
「医者には見てもらったのか?」
「ええ、確か熱が出た初日にお医者さんが家まで来ました。ただ、3日すぎると状況が悪化して意識も朦朧としてきたのです」
「そこでもう一度医者を呼んだのか?」
はい、と呟いたショーンの声は弱々しかった。
「だったら、」
「2度目の診察で解熱剤を頂きました。隣町の市場に野菜を卸しているお家だったので、両親とも翌日は外出しなくては行けない予定で。いつもどおり私が看病をすると約束しました」
日が暮れるまではうまく行っていたのだとショーンはこぼした。病態が安定しだした彼女が眠るベッドの横で本を読み時間を潰していたと。少しでも胃に食物を、と思い、りんごを擦りはちみつと混ぜたものを食べさせたのだと言った。
そこまでは、なんの変哲もない話だった。親しい人間を看病した経験は誰でもあるだろう。問題はそこからだった。
いつも以上に早口で話していたショーンが口を開くのを躊躇した。
「どうした、ショーン?紅茶のおかわりでもいるか?」
「大丈夫…です。思い出すと自分の不甲斐なさを感じてしまって」
「それを吐き出すためにここに来たんだろ?さっさと話して楽になっちまえ」
「簡単に言いますね、ニール」
「お前ほど真面目じゃないからな」
夕飯を済ませ、後片付けを始めた頃だった、とショーンは口を開いた。窓に叩きつけられる雨の音に驚いた記憶がある、と言う。
いつもより激しい雨は雷雨となり、豪雨となり外が見えないほどだったらしい。
「雨戸を閉めて彼女が眠る部屋に戻ったときでした。先程まで静かに寝息を立てていたはずなのに、真っ赤に顔を赤らめガチガチと歯を鳴らして震えていたのです」
そこで初めて、自分は役立たずな人間だと気づいたとショーンはうつむいた。
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