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第120話 ショーンの後悔

 当時の私は若かったこともあり、意味もない自信に溢れていた。学業も卒なくこなせ、生きていて特に問題に直面したこともなかった。それはもちろん、自分に与えられた環境が恵まれていたのと、周りの大人のおかげであったのだが、そんなことに気づけるほど私はできた人間ではなかった。  その自信も、痙攣を起こす彼女の前では役に立たなかった。 「薬が効かなかったのか?」  ここまで相づちを打ちながら話を聞いてくれていたニールが口を挟んだ。  左右に首を振り、私は覚めてしまったカップを唇に当てた。  薬が効いて熱が下がる、翌朝目を覚ましたらすっきりしていた。というのが理想的な看病だろう。  実際はどうだ。  彼女の病態は急激に悪化し、痙攣を起こして震える体を目の前に私の足は言うことを聞かなかった。 「身動きが取れずに、どのくらい彼女を見つめていたか分かりません。10分以上だったか、それ以下だったのか。一瞬のことだったと思いますが、一生のことのようにも感じたのです」 「でも、少ししたら落ち着いたんだろ?」 「それが……」  熱性けいれんに対する適切な対応の仕方など、子供の私には分からなかった。実際、今だって、慌てて大したことはできないだろう。   「医者を呼ぶ、なんてことさえ思いつけずに、震える彼女の体を抱きしめることしかできなかった」  その後の出来事を思い出す日が来るなんて思ってもみなかったが、だからといって忘れた日などない。人の命は儚いものだと私はその日学んだ。 「痙攣自体は少し経ったら収まったんです」 「良かったじゃないか」 「と、私も思い、ぐったりしている彼女の汗を拭いたり、着替えをさせたりなど徐々にしだしたんです」  それから2時間くらいは安心して過ごしていた。高熱を出したのだから痙攣するものなのかもしれない、と無知な私は納得した。  枕を背中に挟み、ベッドの上に座れるくらい回復していた。そんな彼女の病状がこれ以上悪化するはずはないと私は思っていたのだ。   「夜の薬を飲もう、と彼女に声を掛けたときでした。それまでは一言二言、私の言葉に反応していたのですが、その時は返事がなくて」  その時自分が何をしていたかさえ思い出せない。    覚えているのは振り返った瞬間に彼女が嘔吐したことだ。 「吐かなくちゃいけないなら吐いてしまえと、背中をさすったり、濡れタオルで口を拭ったりしていたのですが、段々と腕の中で彼女が意識もうろうとしていくのが分かったのです」  最悪の感覚だった。  声を掛けても反応はなく、段々と腕にかかる体重が重くなっていく。  忘れたくても忘れられない。   「しばらくして彼女はショック状態に陥りました」  何がしたくて、私は今この話を他人に話しているのだろう。

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