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第121話 ショーンの過去

 ショック状態になった幼馴染の命が段々と薄れていくまでに時間は掛からなかった。  どうすることもできない、役立たずで無知な私の腕の中で彼女は死んでしまった。    ただの熱だと楽観視していた私のせいで。  仕事から帰ってきた彼女の両親は冷たくなった娘を抱きかかえた私を見つけても、非難はしなかった。私に向けられたのは、ただただ優しい言葉だけで、それが必要以上に傷を抉ってくるようで辛かった。 「彼女の葬式には出なかったんです。その場にいるのが辛くて。私が殺してしまった彼女にどんな顔を向ければいいのかも分からなくて」  それからすぐに、私は船での仕事を見つけた。  どんな仕事でも良かった。町から遠いどこかに連れてってくれるような仕事なら。  「1、2年帰って来れねーかもしれないぞ?」と言った船長の顔が未だに忘れられない。親元を長く離れることを心配しているというより、現実逃避をしようとしている私への最終確認だった気がする。 「なるほどな、それで看病がトラウマなのか」  ニールは私の目の前にハンカチを差し出すと言った。 「でも、お前が殺したわけじゃない」 「と、私の両親も彼女の両親も言ってくれたのですが、あの時冷静に私が行動できていれば、助かったはずなんです。医者を呼べば、いや、彼女を担いででも医院へ向かえばよかったんです」  できることはたくさんあったはず。  それでも私は何もできなかった。  役立たずで、無知だから。 「船に乗ることで逃げて回っていたんですよ、私は。まさかケンが風邪をひいて熱を出すとは想定していなかったですが」 「ケンは、お前にとって特別な存在だからトラウマが呼び起こされたんだろうな」 「特別……」  そうなのだろうか。  否定はできない。弟のように懐いてきたケンを可愛がってきたつもりだし、近い存在ではある。魔が差してキスをしたこともあったが、いつでも彼女のことが頭にあった。 「違うのか?はたから見てるとお前がケンを特別視してるように見えるが」 「ケンは、兄弟のような存在だと思います」  ケンを好きになってももし先に死なれてしまったら、今度こそ私は気が触れてしまうだろう。 「そうか……まあケンの話は今度でもいいか。それより、お前のトラウマの話だよな。さっきも言ったけどな、お前のせいじゃねえよ。その場にいなかった俺が言っても説得力ないだろうけど」 「でも、」 「ずっと、そうやって抱え込んできたから今更考え直せって言うのも、無理な話だよな」  ほらよ、と突き出された缶にはクッキーが並んでいた。 「アサが作ったんだ。さいっこーに上手いから食え」 「どうも」 「別に荷を降ろせって言ってるわけじゃないんだ。その人の死に対する責任を感じる気持ちは分かる」  だから、その重荷を俺と共有しに来たんだよな、とチョコレート味のクッキーを手にしたニールが微笑んだ。  

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