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第135話 ニールのミッション

「あの、ニールさんっ!この前の約束…!」 「サイ、おはよう」 「おはようございます!!あの、この前の約束のことなんですけど!」  朝から元気いっぱいなのはいいことだな。  ってそうじゃない。    今日の俺にはミッションがあるんだ。  仕事は休みだ。ショーンが船長とうまくやってるんだろう。    ちらっとすれ違った船長はいつも以上にご機嫌だった。ご愁傷様、と無言の言葉をショーンにかけるしかない。なんかいいことがあったんだろうけど、 十中八九ミリさんのことで、長々とショーンや通りかかった船員に惚気話を始めること間違いなしだ。  朝食の当直をしているはずのアサを待つ間に、なんとかこのミッションを終えなければいけない。 「サイ、そのことで話があるんだ」  嬉しそうに近づいてくるサイと意識的に距離を取る。勘違いされたくない相手がいる。俺の中でアサが優先順位の一番上に立っていて、アサ以外はどうでもいい。いや、仕事仲間同士、同じ船で生活するわけだから調和を乱すことはしたくないが。  立ち上がったサイの足元でコロコロと鉛筆が転がった。  スケッチブックのページが風に乗ってパラパラと音をたてる。  甲板を取り巻く空気は暑すぎず心地よかった。 「何ですか、話って?あ、行きたいお店とかあったら僕どこにでもついていきます!」 「それがな、サイ…」  夕飯くらいいいか、と思っていた過去の自分を呪う。積極的な相手を断るのは簡単なことではないらしい。 「ケンの看病のお礼に夕飯を食べに行こうと言っていた話なんだが、アサも一緒でいいか?」 「え…?どういうことですか?」  笑顔がさーっと消えていき茶色い瞳が混乱に染まっていった。  断るのは気が引けるがアサも来れば悲しませることはないだろう。どちらかと言えば年齢の近い二人だが、船の中では近い関係ではない。3人で夕飯を食べれば仲良くなれるかもしれない、なんて安易に提案をした。  と、言ってみるが、どちらかと言えば、断る言葉が見つからずに簡単な方に逃げただけだが。 「アサを傷つけたくないんだ…お前と一緒に夕飯、いやお前でなくても、他のやつと一人っきりで行ったらアサを悲しませてしまう」 「…」 「3人が嫌ならケンやショーンを誘ってもいい。他のやつでもいいぞ?お前が仲良い船員とか」 「そんなにはっきり言うんですね」 「ん?」 下を向いたままのサイの声は震えていた。 「…僕は、ニールさんだけと、が良かったんです」 「それは、残念だが無理だ」 「言い切るんですね。そんなにアサが大事ですか?」  一瞬、顔をしかめたサイの瞳が真っすぐと俺を捉える。  平和すぎる海に似合わないとげとげしい声色が日中の甲板に静かに響いた。

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