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第136話 ニールの気持ち
「ニールさんは、アサが珍しいだけだ。僕たちの言葉も上手く喋れない可哀想な異国の子だから興味を持っているだけだ!」
「はぁ?!」
「すぐに飽きますよ。あと数か月もしたら物足りなくなるはずだ」
驚きすぎると、人間、頭が真っ白になるんだな、とどこか俺は落ち着いて目の前で叫ぶサイを見つめていた。初めて見るサイの表情と言われている言葉に、ただ何も言うことが出来ずにいる。
「おい、サイ…」
「それに比べて僕は——」
「サイ!」
俺の声で遮られた自分の声を飲み込むようにサイは息をついた。それはまるで、今まで俺に向かっていたのが信じられないと言ったような顔だった。
「ぼ、僕…」
「どんなに、俺とお前が同じ言語を話せたって、例え、アサが一生俺らの言葉を流ちょうに話せなくたって、俺には関係ないんだよ。それに、俺がアサに飽きる前に、俺が飽きられるに決まってる。そんなことになったら俺は必至でアサを振り向かせようと頑張るはずだし、下手したらアサを閉じ込めてしまうかもしれない」
アサのいる日常に慣れてしまった今、もしもアサに捨てられたら、と考えると心臓が何倍も重くなったような気がした。
「そのくらいアイツじゃなきゃいけないんだ。物足りないどころか何倍にも溢れてしまいそうだ。アイツのことを良く知らずに、そう悪口を言われちゃ困る。がっかりさせて謝ることしかできないが、次の寄港で一緒に夕飯を食べに行く約束はなかったことにさせてもらう」
「…ぼ、僕、こ、こんなつもりなくて…」
ゆっくりとサイの頭が項垂れている。
「ごめんなさい…こんなこと言うつもりじゃなかったのに。僕、本当にニールさんのことが好きで。でもアサがいるって分かってるから、少しの間だけでいいから一緒に過ごしたいって思っただけなのに…ごめんなさい…」
ただ約束を取り消しに来ただけだというのに、なんでこんな大事になってんだ?
遠巻きに、当直中の船員たちがちらちらとこちらを見ている。
最悪だ、絶対数分後に船長に話が行くはずだ。そんなことになったら、あの人の過保護スイッチが入ってしまう。そこからアサに話が伝わったら…絶対悲しませてしまうに違いない。
ここは静かに話し合って静かに撤退するべきだな。
「サイ、少し落ち着け。お前の気持ちは嬉しいがそれに応えることはできない。何があってもだ」
「…分かってます」
「ただ、それでも船仲間としてお前とはこれからも仲良くやっていきたいし、お前にはアサのことを知ってもらいたい。まだ深くかかわったことがないだろ?」
「はい…仕事中もあんまり言葉かわしたことないです」
サイは悪いやつじゃない。素直だし覚えもいい。若干他の船乗りたちより小柄だが、ミリさんやケンも大きい方ではないから背丈は関係ないか。弟分と言った感じなポジションにいるやつだ。この船の中じゃケンとアサも同じ感じだな。
仲良くなればサイもアサの良さが分かるはずだ!
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