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第137話 ニールの本心
いや、アサの本当の良さを知っているのは俺だけでいいんだけどな。仲良くなりすぎてアサの魅力まで理解されたら最悪だが…
アサはただ「異国の言葉の通じない人間」ってだけじゃない。
言葉の壁を越えれば、一緒にいるだけで幸福感に満たされるような存在で、誰よりも優しくて可愛い少年だということが分かるはず。
それを、サイに知ってもらいたい。
「サイ、お前たちなら仲良くなれるはずだ」
自分に好意を持ってくれているやつに、自分の恋人と仲良くなれと言うのもおかしな話かも知れない。
でも俺たちは3人とも同じ船で働く人間で、好き嫌いを取り外しても、明日も明後日も一緒に生活を共にしなければいけない仲間だ。
「…わかりました。でも僕の気持ちは?ニールさんのこと、ずっと好きだったんです」
「それに関してはゴメンとしか言えない。お前の気持ちに応えることはできないよ」
「振られちゃったんですね、僕」
「悪いな。アサ以外はあり得ないんだ」
出会ったときからだったのかもしれない。
簡単に言い切れてしまうくらい俺にはアサしかいない。アサにはいつか他のやつを好きになる日が来るのかもしれないが…そんなことになったら俺はきっと気が触れて手段を択ばずにアサを囲ってしまうに違いない。
仕事も何もかもを捨てて、誰も知らないような田舎に引っ越して、外に出れないようにアサを部屋に閉じ込めて、俺のことしか考えられないようにしてしまうだろう。
自分のこの感情はとてつもなく危険だ。ただ愛しているだけなはずなのに、もしものことを想像しただけで暴走しそうな思いがふつふつと湧き上がる。
これは、アサには言えない。
狂人だとは思われたくないし、怖がらせたところで俺には何の得もない。一緒にいてくれるだけで幸せなのだから、夢のようなそれを絶対に壊してはいけないんだ。
「僕は…どうしたらいいんでしょうか。失恋ってどうしたら治るんですかね」
「失恋、か…」
自分のせいなのは分かっているが、悲しそうな顔をしているサイを目の前に感じるのは罪悪感だけだ。だからと言って、彼の気持ちに応えられるわけではない。
こういう時にどう慰めたらいいんだ?
アサが悲しんでいたら、俺は迷わずに抱き寄せて背中を撫でてやる。陶器のように美しい頬に涙が流れていたら、それを掬って唇を寄せて、過呼吸になり気味な唇を舐めてやるのに…
っと、派手に脱線したな…
甲板の上に降り注ぐ日差しは、話し始めた時より強くなってきた。そよ風しか吹いていないような天候だが、波が船に叩きつけられ水しぶきが上がる音がかすかに聞こえる。
「俺に聞くのは間違っていないか?突き放すつもりはないが、俺はお前を振った男だ。なんと言おうと、お前が納得するようなことは言えないだろう」
なるべく優しく声をかけたはずだ。言葉を選ぶほどの余裕はなかったが、なるべく傷つけないように俺なりに気を使った。
それなのにサイから聞こえたのは返事ではなく、長く深いため息だった。
「初めから僕が気づけばよかったんですよね。ニールさんの気持ちはアサにしか向いてない。口を開けば出てくる言葉には全てアサへの愛情がこもってる。それを、僕は気づけなかった」
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