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第139話 ニールの依存症

「ミリさんと船長は、どうやって出会ったんですか?」 「僕たち?面白い話じゃないよ」 「そういう話って船長からじゃ絶対に聞けないんで」 「そう?喜んで長話しそうじゃない?」 「ああ…話始めたら長そうですけど、大体惚気話じゃないですか。惚気話なら毎日のように聞いてるんで」 「そうなの?」  頭を傾げたミリさんははっきり言って可愛い。こんなこと船長に言ったらボコボコにされるし、最悪船から海に投げ出されるだろう。それに俺にはアサがいるからアサ以上に可愛い人間はいないって思っているが、40超えて可愛いとか何を食べて生きているんだろう… 「同じ船で働いていたとかですか?ずっと一緒に働いてますよね、確か?」 「そうだね、20年近くは同じ船」  だけどね、と口にするとミリさんは嬉しそうに笑った。 「出会ったのは陸なんだ。ふふ、あの時は僕たちも若かったなあ。今だったら絶対思い切って船に乗るなんてしないもの」 「船乗りの生活にいきなり切り替えるのはキツいですからね。生活リズムも違うし合わない人間にはとことん合わないし。二人とも陸で生活していたんですね」 「うーん、ちょっと違うかな。セブはもう船乗りだったんだよ。数か月に一度僕が住む街に寄港しに来てたんだ。僕はセブに出会って船に乗ることにしたの」  その時のことを思い出しているのか、ミリさんの視線が空を見上げた。 「僕の実家は何代にも渡って茶葉を売っていたんだ。今も従妹が継いでやってるけどね。本当は僕が受け継ぐはずだったんだ。それなのにね、セブが何度も何度も親に頭下げにきて…っておっと、この話は今度してあげる。僕、仕事始めなきゃ!遅刻しちゃう」 「え、あ、今からですか?すごく気になる終わらせ方しますね」 「だから、そんなに波乱万丈でも面白い話でもないんだってば。今度暇な時続きを教えてあげるね。それよりニール、アサを絶対離さないようにね。あの子はキミの宝物だよ」 「当たり前です。心配されなくてもアサはずっと俺の物ですっ」  マグカップをくいっと持ち上げるとミリさんは、甲板の向こうへと消えていった。  そろそろアサの当直が終わったはずだ。今日は部屋に戻って二人でゆったりするのもいいな。夜の当直が始まるまで時間の余裕がある。   「働いたわけじゃないのに疲れたな…」  今朝は起きて、サイと話をしてミリさんと話をしただけだ。はっきり言って活動量で言えば仕事中とは比べ物にならないくらい、何もしていない。  気苦労ってやつかな。サイのことでエネルギーを使いすぎた気がする。  こういう時はアサを充電しないと… 「部屋に戻るか」  もうすぐ会えるアサのことを考えただけで疲れが少し吹っ飛んだような気がした。癒し効果もある恋人とか最高だな。アサと出会う前にどう生活していたんだかもう思い出せないくらいだ。そのくらい精神的にも依存している自分に驚くこともある。  俺はこんな人間ではなかったはずだ。  もっと打たれ強かったはずなのに。 「ただいまー。アサ?まだ戻ってきてないのか?」

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