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第140話 アサの後片付け

「ケン、カタヅケ?」 「したよ、ほら!」 「ン、ダメ。キタナイ」 「えええええええ、ひどい!アサが最近厳しい!誰?アサに『汚い』って言葉教えたの?!」  朝の当直は皆が起きるちょっと前に始まるから、慣れるまでは大変だった。僕は大体ケンと一緒に働くから仕事自体は苦じゃない。目が覚めてくるまでが辛いけど。    ニールも朝から働いている日は、一緒に起きて一緒に支度をしてからそれぞれの持ち場に向かう。僕は厨房、ニールは操舵室へ。仕事の長さは違うし内容も違うから、すれ違いが多いときは、僕が寝ているときにニールが働いて、ニールが眠りにつく頃に僕がのそのそ起きだして、仕事を始めるなんてこともある。  それでも僕の船生活は充実している。  異国の言葉だって少しずつ覚えてきた。流ちょうに話せるほどではないが、数か月前よりは意思疎通ができるようになっている。  それもこれも、ニールやケン、ショーンやその他の船員さんたちのおかげ。皆、優しいから僕が口を開くと辛抱強く待っててくれるんだ。分からないことがあればゆっくり教えてくれる。何よりも、母国語を話せない環境にいるわけで、皆が話す言葉を習得するしかないから自然と脳みそが吸収していっている気がする。 「アサぁぁぁ終わったあああ!もういいよね、鍋全部洗ったよ」  朝ごはんの仕事が終わって後片付けをしていた僕にケンが飛びついてきた。ケンの片づけ方は竜巻のようだ。動きは速いし、使った用具やごみは一見すると片付いているように見えるけど、実は違う。  よく今まで厨房を任されていたよねって思うくらいぐちゃぐちゃな片づけ方だ。このままじゃ次に使う人に迷惑がかかっちゃう。 「オワッタ?」 「終わった!ほら!」  確かにさっきよりはマシだけど、まだまな板に野菜の切れ端がついたままだ。 「ケン、コレ?」 「ああああ!でもちょっとだよ。これだけなら許して?」 「ダァメ。ケン、キタナイ」 「ひどいいいいい」  これは今に始まったことではない。ほぼ毎日僕たちはこのやり取りをして、ケンが叫んでぶつぶつ文句言いながら後片付けをして仕事を終える。あまりにも日常の一部と化していて、通りすがりの船員たちも苦笑いをしながら通り過ぎるか、ケンに向かって何かを叫んで行く。  決してケンがいじめられてるとかではない。多分、冷かされてるんだと思う。ケンはみんなの弟みたいな位置にいるから。 「オワッタ。キレイ!ケン、オツカ、レ」 「いいのいいの?もう終わり?もう僕掃除しなくていい?はあああああ、今朝は長かった」  エプロンを外したケンは、大げさにため息をつくと自分のためにとっておいたパンを片手に速足で扉の方へと向かって行ってしまった。僕もケンも夕飯の支度になるまで休憩できる。朝早かったから特に早く部屋に戻りたい気持ちは僕も同じだった。  早くニールに会いたい。 「アサ!早く帰ろ!ってあれ?ここで何やってるの?」 「ケン?」  伸ばされた手をつかみ、廊下へと出るとそこには少しだけ会うのが気まずい人物が立っていた。 「二人ともおはよう」 「…サイ」 

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