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第144話 ケンと恋話

「なるほど、ニールを夕飯に誘い出して、そこでチャンスをものにしようとしたわけね」 「ケン、ちょっと言い方変えてよ」 「だって、そういうことでしょ?」  僕の隣に座るアサには多分何の話だか伝わっていない。  どちらかと言えば、理解できない方がこの話は聞きやすいかもしれない。  だって、自分の恋人に告白した話なんて聞きたくないでしょ?それが失恋に終わったとしたって、良い気はしないはず。  アサは繊細な弟分。僕が守らなきゃ。  ニールは当てにならない。アサのことが大好きすぎて、周りが見えなくなってるから使えないもん。仕事ならバリバリできるのに、アサが登場したらふにゃふにゃ。  僕がいなきゃこの船沈んじゃうよね!  コップの中でオレンジ色の液体が小さく揺れた。  サイが淹れてくれたお茶は、甘い果物の香りがした。ショーンがいつも飲んでる紅茶とは違う美味しそうなお茶だ。   「別に、ニールさんとどうこうなりたかったわけじゃないよ。アサがいることだって知ってたし」 「同じ船に乗っててそのことを知らなかったら、ただのバカだよね」 「ねえケン、さっきから僕にだけひどくない?」 「ごめん、だってちょっとムカつくんだもん」 「なにそれ」  サイと出会ったのは数年前の話。  「まだ若いけど、なんとかなるだろ」って言って船長が連れてきたんだ。あ、多分船長は人さらいとかしてないと思うんだけど、何かわけがあってサイは寄港先から僕たちの船に乗ってきた。  あのときは確か自分と同世代の仲間ができるー!って喜んだ覚えがある。  まあ、現実はというと、サイは僕と正反対で一人で絵を描いて過ごすことが大好きで、ワイワイガヤガヤってみんなでやっていても、混ざってくることはない。だから今の今まで、彼の部屋に入ったことはなかったし、こうやってしっかり会話を交わしたことは数えるほどしかなかった気がする。  別に仲が悪いわけじゃないよ!  ただ、仲良くなるタイミングがなかったってだけ! 「だって、友達の恋人を奪おうとしたやつに優しくなんてできる?」 「ケン、僕は別に奪おうとしたわけじゃない。確かに、チャンスがあればいいなーとはちょっとだけ思ったけど、そんなこと、叶うわけ無いってわかってたし」 「でもさ、なんでニールなの?」  「ニール」って僕が言ったからか、アサの体がピクって動いた。  そうだった、アサもここにいるんだ。    頭を傾げて僕を見上げてきたアサの髪は後ろで結われている。前に泊まった街でニールが買ったバレッタを、健気なアサは毎日毎日使っている。  毎日同じの使って可愛そうだよ!って思ったけど、あいにく船の上にはバレッタ代わりになりそうなものなんてないし、船員たちでそんな繊細なものを持ってる人なんていなかった。こういうときに、男ばっかりの職場ってのも難ありだなって思っちゃう。  次の寄港地で、バレッタを買うんだ!僕があげたって問題ないでしょ?  ニール?大丈夫!あの人は無視しとけばなんとかなるなる! 「なんでって…男らしくて、頼りになって、優しくて、目が綺麗だから…」 「同じニールの話ししてるよね?」 「ケ、ン…ニール、ナニ?」

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