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第145話 ケンはお兄さん

 さすがに何度も「ニールニール」って言いすぎたせいか、不安そうにアサが僕の袖を引っ張ってきた。    ああ、かわいい!こんな仕草するだけで可愛いなんて、やっぱりお兄さんな僕がアサを守らなきゃ駄目だよね! 「ニールの良いとこはどこだろーって話してるの」 「イイト、コ?」 「んーとね、カッコいいとこ?」  簡単な言葉だけど説明が難しいときってあるよね。  これがまさにそれ!  たまーにだけど、どう言ったら通じるかわからなくて2人で困っちゃうときがあるんだ。それでも、時間をかけたら絶対に理解してくれるから、アサは賢い。 「アサ」 「ウン、サイ…?」 「ニールさんの髪好き?」 「どうしたの突然」 「ケンは黙ってて。自分じゃ説明できなかったじゃない。僕がやってみる」 「ふーん?」  なんだなんだなんだあああ?突然お兄さんぶりだしたぞ?いや、アサの親友になろうとしてるのかああ?  親友で兄のポジションは僕のものだって決まってるんだけど!あとから出てきて奪い取ることはできないって決まってるよ!  でもね、僕は余裕がある人間だから、サイにちょっとだけ時間をあげるんだ。アサに友達が増えて損はないだろうし。ニール関連で変なことしたら僕がショーンにお願いして怪力おばけ攻撃してもらうんだから! 「ニール、カミ??キンイロ」 「そこまで分かってるんだ。すごいね。金色の髪、好き?」 「スキ。キレイ」 「それじゃあ、ニールさんは優しい?」 「ヤサシイ…ウン。ニール、ヤサシイ。ミン、ナ、ヤサシイ」  もう!アサッたら天使なんだから!みんなが優しいだなんて、そんなことないよ!世の中、狼みたいな人間もいるんだからね!ここはやっぱ僕が守らなきゃ! 「そう、皆優しいか。ニールさんが優しいのと、綺麗な金色の髪は、ニールさんの『良いとこ』なの」 「イイトコ、ニール…ヤサシイ、イイトコ」 「そうそう。分かった?」 「ン…ワカッタ。アリガト、サイ」  なんだかわからないけど、一発で通じちゃったってこと?!  アサが控えめに微笑んでサイに頭を下げている。サラサラした真っ黒の髪が本人の動きに合わせて揺れてすごくきれいなの。ニールの金髪より、アサの黒髪だよ!金髪なんてどこにでもいるし、珍しくもないもん! 「どっちにしても、僕はアサには敵わないんだ」 「そんなの一目瞭然だよ」 「ケン、ひどい」 「だって事実じゃない?」 「そうだけどさ」    悲しそうな顔を見せたサイが、画用紙がたくさん貼られている壁に目を向けた。  失恋をしている仕事仲間に冷たい言葉をかけ過ぎちゃったかな。 「サイ、もっと良い人が現れるって!」 「船に乗ってたら難しい話だよ」  それは一理あるんだけどね!もおおお励ますってどうやるの?何を言っても悲しいままじゃないか!

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