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第146話 ケンのいやし効果
「アサはラッキーだよね」
「ボク?」
「そう、ニールさんがいるでしょ?」
そう話しかけたサイは、すごく寂しそうな顔をしていた。
「ニール?」
「恋人でしょ?」
「コイビト、ウン。ボク、ニール、コイビ、ト」
いいなーってサイはため息をついた。多分それが本音。絶対本音だよね。ニールと恋人になれていいなっていうより、恋人がいていいなってことなんじゃないかな。
大勢で船に乗っているけど、孤独を感じる気持ちはわかる。
船員たちは決して家族ではない。友達になる人もいるけど、どちらかと言えば仕事仲間だ。団結して働くし、一緒に生活するけど、自分の一番弱いところを見せれる恋人や家族的な存在が近くにいないと、時に寂しくて辛いこともある。
僕にはもともと両親はいないし、船長とミリさんが親代わりだからラッキーだけど。それに、困ったときはショーンがいるし。
「サイ、ダイジョブ?」
「え、僕?」
「ウン、サイ、カナシイ。ダイジョブ?」
僕がぼーっと考え事をしていると、アサが可愛い心配をしていた。
もう、この人、元恋敵だよ?!まだニールへの気持ちが吹っ切れてないかもしれないんだよ?何を心配してるの!
「大丈夫…ではないかな。でも3人で話してるとちょっと落ち着く」
「僕にはいやし効果があるからね!」
「いや、ケンにはないよ、そんな効果」
「ひどっ」
「だってうるさいだけじゃない。アサにいやし効果があるのかも。好きだった人の恋人なのに、変な感じ」
大変だ、サイもアサの可愛さに気づいちゃったかもおぉぉ!
「アサは僕のものだよ」
「は?何言ってるの、アサはニールさんのものでしょ?怒られるよ」
「アサ、僕の事好きだもんね?」
「ケン?スキ…サイ、スキ」
「えええええええええええええ、サイも好きなの?!」
衝撃の事実なんですけどおおおお!
「皆がアサを可愛がる訳だよね」
ってそれはそうなんだけどさ、サイ!
「サイ、アシタ、エ?」
「エ?あ、お絵かきしようってこと?いいよ、明日の休憩時間にしようか」
「ワカッ、タ」
そうだ忘れてた。サイはアサとお絵かきしたがってたんだった!
「変なこと企んでないよね、サイ」
「なんで僕を疑うのさ」
「怪しいから」
「もう、ニールさんには興味ないし、アサに変なことしないよ。僕はただ友だちになりたいだけ」
「それなら許す」
「ケンが許可出すことじゃないんだけど」
飲み慣れてないのに、癖になる味がした紅茶を全部飲み干してしまった。
どのくらいこの部屋にいたかわからないけれど、予定より長居しちゃった気がする。
「よし、じゃあ僕たちは部屋に戻るよ」
「ケン、ヘヤ、カエ、ル?」
「そうだよ、ニールが待ってるでしょ?」
「ウン!」
恋も失恋もしたことないけど、サイはいつかきっと元気なるよね。
こういうのって時間の問題だって、誰かが言ってた気がする!
「じゃーねー!」
って元気よくサイの部屋を出たると、廊下の向こうでウロウロしている怪しい男を見つけた。なるほどなるほど、アサを探してこそこそしているわけね。
面白いこと思いついたぞ!
「そうだアサ、僕の部屋に来る?」
「ケン、ヘヤ?」
「そう!美味しいビスケットあるよ! ニールのことは心配しないで、僕の部屋でお茶しようよ!」
「ウ、ン…デモ…ニール…」
「大丈夫だって!」
アサは迷ってるような困ってるような顔をしているけど、四六時中アサを独り占めしているニールにちょっとくらい悪戯したって怒られないよね?
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