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第147話 ケンとジャガイモ
「チョコのビスケットとアーモンドのビスケット、どっちがいい?」
「チョ、コ…?」
作戦成功!
廊下でアサを探していたニールに見つからずに部屋まで戻って来れた。もちろん、アサは何が起きているか理解できていない。ニールは探しても見つからない恋人を求めて、うろうろ困っているはず。にひひ、ちょっとした悪戯だよ。少しくらい僕がアサを独り占めしたっていいでしょ?
ぎゅって手を握って部屋まで早足で歩いても文句を言わずについてきてくれたから可愛すぎる。
さすが僕の弟分、さすが僕の親友!
ああーかわいいかわいい!
「はい、チョコのあげるね」
「アリガト、ケン。コレ、チョコ?」
「そう、甘くておいしいよね~」
アサが僕たちの船で発見されたのは、確か6か月前とかだったっけ。もっと前のことだったような気もするし、ついこの前の話のような気もする。
たまの寄港で陸に降りる以外、ずーっと波に揺られていて単調な毎日を同じ船員たちと過ごす。字面では物凄くつまらなそうな生活だよね。
それがそうでもないのが不思議な話なんだけど。同じ顔触れで、やってることは毎日同じはずなのに、毎日ちょっとずつ違う。人生のほとんどを船の上で過ごしているけど、飽きたなって感じたことはない。
ああ、ちょっとかわいい 反抗期に入ってた時には、船長に「もう嫌だ!」とか言っちゃったことあるけど……それなら早く降りろって荷物まとめられて号泣したんだっけ。そう考えると僕も成長したよね。うんうん。
「アサは船の生活楽しんでる?」
「フネ?」
「そう、船、楽しい?」
出会った頃のアサは、辛うじてニールの名前と簡単な言葉を1つか2つ喋れるくらいだった。シャイな性格なのか、控えめで大人しいアサはいつも遠慮がちに静かにニールの後ろに隠れていた。ウサギみたいで可愛いアサを見た瞬間、僕の弟分だ!って確信したんだ。
「タノシ、イ。ボク、ケン、スキ。ニール、スキ、ショーン、スキ。フネ、スキ。リョリ、タノシイ」
「りょ・う・り。料理だよ、アサ」
「リョーリ?」
「うーん、もっと、料理って言う感じ。うううって」
「リョ、ウゥリ?」
ぱくぱくとビスケットを食べながら、ベッドの上で話をしていると、アサの語彙力が伸びていることに気づく。まだ、6か月。それなのにスポンジみたいに言葉をたくさん吸収していくアサは、昨日よりもっと言葉を知っているし、明日はもっと会話できるようになっているはずだ。
さすが僕の弟分。賢いところは僕に似たのかな!
「ケン、リョーリスキ?タノシイ?」
「え、僕?!」
好きなのかな、どうなんだろ。そんなこと考えたこともなかったよ! 気づいたら厨房担当になってたんだもの。幼い頃なんて、一日中ジャガイモの皮むきやらされてたんだよ?
あれはつらいんだ。大きな袋に入ったジャガイモを一個一個包丁で皮をむいていくんだけど…椅子に座ってやっても、立ってみても腰が痛くなるし、同じことを何時間もやっていると頭がおかしくなりそうだし。
じっとしてられない僕に「大人しくしてる訓練だ」って船長は言ってたけど。訓練の成果が出ているのかは不明だ。
まあ、おかげで何も考えずに皮むきできるようになったわけだけど。
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