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第148話 ケンは我慢できる子
好きかって聞かれたら、ちょっと違う気がするな。
でも嫌いってわけではない。だって僕これしか知らないし。他のことをしている自分も想像できない。
は!もし僕が、ショーンとかニールみたいに、航海士になったら?!
難しいこと分からないし、航海当直の業務は細かいことが多くて面倒くさそう。航海計器の使い方だって分からないし、覚えられる自信はない。
何よりも、船を沈めずに前に進めるって重大な仕事だよね。だって皆の命がかかってるじゃない?
「好き、かな。料理。僕にはこれしかないと思う」
「ウン? ケン、リョーリ、ジョーズ」
「ほんと?!」
えへへ、褒められちゃった。
適材適所ってやつだよね。僕は料理ができるから厨房担当で、ショーンとかニールはじっとしていられるし、賢いから航海士で、船長は……船長は長く生きているから船長になったのかな?たぶん。
「アサ、最後のビスケット食べる?」
「サイゴ……?」
「うん、最後の1枚」
「……サイ、ゴ」
あああああ!悩んでるアサが可愛すぎる!
今頃アサを見つけられないニールは焦ってぐるぐる船内を走り回っているはず。ちょっとした悪戯だよ、何度も言うけど。怒られるかもしれないけど、可愛い弟分との至福の時をもう少し楽しませてほしい!っていうか楽しんじゃう!
「分からない?」
「ン、サイゴ、ワカラナイ。コレ、サイゴ?デモ、コレ、チョコ」
「そうそう、チョコのビスケットなんだけどね!最後のチョコのビスケットなの!」
あれ、余計分からないって顔してる…しまった説明不足かな…でも、「最後」ってどう説明するわけ?
難しすぎる……
「ケン、コレ、サイゴ?」
「んー、それはただのパズルだね~」
「パズル…コレ?」
「それは、僕のぬいぐるみだよ」
「ヌイグ、ミ?サイゴ、チガ、ウ?」
ダメだ、全く違う方向に進んでいってる。
僕の部屋にあるものをあれこれ指さしたアサはもちろん可愛いの権化なわけだけど!そうなの!頭をコテンてして「コレ?」なんて言われたらね、間違ってても、そう!大当たり!それ本当は僕の靴下だけど「最後」って名前つけちゃおう!って言うくらい可愛いんだよ。
ああ、かわいいかわいい。
「アサ、最後って言うのはね…ここに飴があるでしょ?」
「ウン、コレ、オイシ」
「美味しいよねええええ! 次の寄港地で売ってるかなああああ!もうあと5粒しかないんだよお!ってそうじゃなくて」
「ケン、ウルサイ」
「ごめん、興奮した」
橙色の瓶の中には飴玉が5つ。
口に含めば途端に幸せになれちゃうくらい美味しいやつだ。たくさん食べちゃいたいけど、あと5粒だから我慢しないと!
我慢できる僕えらい!
「でね、例えばね、2粒をアサに、もう2粒を僕にって分けるでしょ?」
「コレ、ボク、ノ?」
「例えばね、あ、食べちゃダメだよ、あと5粒しかないんだから」
「ダメ?」
「うん、ごめん、今日はダメ」
アサでもダメだよおおおごめんんんん!
次に泊まる街で見つけられたらお兄ちゃんがたくさん買ってあげるからぁ!
「僕に2粒、アサに2粒って分けると1粒残るでしょ?」
「コレ?」
「そう、この瓶に残ってるやつ」
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