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第149話 ケンの脳細胞
瓶を振るとさっきより小さな音が鳴る。
4粒の飴玉を出した今、瓶の中に残る飴は「最後」の一粒。
ああ、僕やっぱ頭いいかも!
「これが最後。最後の一粒でしょ?」
「ウーン…」
「アサに1粒、2粒、僕に1粒、2粒、でここにあるのが「最後」」
「デ、モ、アメ…イチ、ニ、サン、ヨン、ゴ。コレ、「ゴ」?」
「んー!アサ、数数えるの上手になってるう!そうなんだけどね、間違ってないんだけどね!」
最後の「ご」と五が被るとは計算外だ!それがなかったら完璧だったのに―!
5個以上あるもので説明しなきゃ。
「じゃあ、ここに小銭があるでしょ?」
「ウン…?」
「8個あるでしょ?」
紺色のズボンに白いシャツを着たアサが、ベッドの上に並んだ小銭を数えている。僕も同じ格好しているんだけどね。制服だから。僕と違ってきっちりボタンを上まで締めてるアサは真面目だよね。
厨房は暑いって言うのに。この上にエプロンまでしなきゃいけないんだよ?
着崩しすぎていると「規律が!」とか何だとかってショーンと船長が怒りだすし、ミリさんが「ボタン外れちゃった?」とか心配しだすから僕も気を付けているけど…たまに暑すぎてちょっとだけボタン外して着てる。怒られたことは片手で数えられるくらいだから、まだセーフだよね?
「ケン、コレ、サイゴ?」
「ちがうちがう。それは5個目。「ご」って出てくるからややこしいよね。でもそれは最後の1個ではないよ」
「チガウ?」
やっぱり「ご」がネックかー!
自分が生まれ育った言葉ではないものを学んでいるアサをすごく尊敬する。だってこんなにも言葉を説明するって難しい。それを克服してどんどんと覚えていくアサは天才かなんかだ。
僕なんか母国語しか喋れない!それだってたまに間違えるのに!
「えっとね、これが最後なの」
「ハチ?」
「そう、8個目で最後。これがなくなったらもうないでしょ?」
「ウーン…?」
ああ!まだわからない?僕の説明通じてない?!
言葉の意味を説明するってこんなに難しいんだ。
アサに数の数え方を教えた時以上だ。ショーンに言わせたら「言葉の概念が~」とか難しいこと言いだしそう。うーうげっ、それもめんどくさいから助けて~って言いに行くのはなしだよね。
アサのお兄ちゃん的ポジションの僕が何とかしなくちゃ!僕はやればできる子!
って言うのは簡単なんだけどな、実際どうしたらいいんだか。作戦作戦。頑張れ僕の脳細胞!
「ケン、ムズカシ?」
「ちょっとだけね。でもアサに分かってもらえるように僕頑張るよ!」
「ボク、モ、ガンバル!」
も~アサったら逞しい!
あ、そうだあああああああ!
「アサ、朝食の時みんなが並ぶでしょ?」
「チョ、ショク?」
「そう、列になるじゃない?」
「チョ、ショク、レツ……ウ、ン?」
「ほら、こうやって」
良いことを思いついちゃった僕を誰も止められないぃぃぃ!ってことでスケッチブックを引っ張り出してきて、朝食の時に食堂に並ぶ船員たちを描いてみた。
っていっても、真っすぐに並ぶ丸を3つ描いただけだけどね。だって、本格的に人間なんて描けない。僕、サイじゃないし。お絵かきコンテストじゃないし、意味が伝わればいいんだもん。
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