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第151話 ケンと半分こ

 細身で背が高くないアサと、正直なところ船員のなかじゃあチビな方の僕が並んで寝っ転がってもベッドは窮屈じゃない。本当の弟がいたらきっと僕は、こうやって一緒の部屋で何時間もゴロゴロしながら、お悩み相談とかしたり、ゲームをしたりしてお兄ちゃん顔をしたはずだ。  きっと、可愛い弟が夜中に「にーちゃーん、お化けこわいー!」って言って僕のベッドにもぐりこんできて、僕が「大丈夫だいじょうぶ、にいちゃんがいるからな」って安心させてあげるんだ。泣いてたらいい子いい子してあげて、ココアを作ってあげる日もあるかもしれない!  ま、現実にはそんなこと一度も起きたことないんだけどね。だって、両親もいなけりゃ兄弟も多分いないし。 「サイゴ……サイゴ……」 「あ、そうだ、言葉を覚えたお祝いに最後のビスケット、食べる?」 「ボク?」  向かい合わせに寝転がっているアサの長い髪は、真っ黒。僕たちの国じゃとても珍しい髪色だ。寝起きに、絶対大爆発している僕の髪と比べると、真反対に真っすぐでつやつやしている。アサの髪に指を走らせると、いつもすべすべなんだよね。手入れしているのかな?  だって、天気が良い日はきらきらするんだよ。 「ダメ、ケン、サイゴタベル」 「僕が最後の食べるの?」 「ウン、ハイ」 「えええ、僕はアサに食べてほしい!」 「ダメ」  ぴょこんと座ったアサの動きに合わせて、腰の下でマットレスが軋む。体重の軽いアサが弾んでも大きく揺れたりはしなかった。  大男な船員でも同じ種類のベッド使ってるし、結構頑丈なのかも?  豪華なベッドじゃないけど、一人ひとり部屋があってベッドが支給されているのはありがたいよね。船によっては4人部屋だったり6人部屋だったりで、ぎゅうぎゅうで寝泊まりするみたいだし。そう考えると、この船って結構待遇いいのかな?  あ、アサとニールは同じ部屋だけどね。アサが船に乗ってきた時点で余っている部屋はなかったし、二人がいつの間にか恋人同士になっていたからちょうど良いよね。 「アサ、わかった!超名案!」 「ン?」  あああああ!やっぱりやっぱり、アサがコテンって首を傾げる仕草って最高に可愛い!同じ男だって分かってるよ。でもやっぱり可愛いんだよー!他の船員がやったら、ウゲッてなるけどね。う…ニールがやってるの想像しちゃった。最悪… 「ケン?ナニ?」 「あ!そうそう、ごめん、アサが可愛すぎて妄想してた」 「モ、ソウ?ン?」 「何でもない!そんなことより、このビスケットね、半分こにしよう!」  ふう、我ながら良い考えだよね。手のひら半分くらいのビスケットだけど、二人で半分ずつ食べたらぜーったいにおいしいはず! 「これをね、半分に…ふんっ!」 「ハンブン、コ!」 「正解!これは簡単だったね」  ビスケットは均等に割れなかったし、半分こっていうよりは5つくらいに割れちゃったけど、まあいっか!二人で食べれるもんね! 「はい、どうぞ」 「アリガト、ケン」  アサは一番小さい欠片を僕の手のひらから取った。  こういうとこがアサの良いところだよね。遠慮がちと言うか、欲がないというか。 「んー!二人で食べるとおいしいね!」

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