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第152話 ニールのアサ探し

「おいイザヤ、アサを見かけなかったか?」 「ニールさん、お疲れ様です!今日、休みじゃないですか。何をフラフラしてるんすか」 「一大事なんだよ」  サイとの話が終わり、俺はアサの待っている部屋に戻ったはずだった。  気疲れする会話だったからってのもあるが、たまの休みだから何よりも先にあの可愛い顔を見て、腕いっぱいに抱きしめて有意義な一日を過ごそうと思っていたのに。    なのにだ。扉を開いた俺を待っていたのは、なじみの家具だけだった。  几帳面なアサと同室になってから、自室は今まで以上にきれいに整えられている。いつやってるんだか分からないが、机にもランプにも埃はたまることがなく、ベッドのシーツは皺ひとつなく真っすぐと敷かれている。  細かい話だが、こういう小さい変化を見るたびにアサと生活しているんだと実感してしまう。幸福感しか感じられない。  かと言って、少し前の自分の生活が味気なかったわけではない。好きな仕事につき、気の合う仲間たちと生活し、決して不自由ではない毎日を送れていた。あのままアサと巡り合わない人生を過ごしていても、俺は不幸にならず生きていたはずだ。でも、アサなしの人生を送っていたら、今の幸福感を知らないままでいただろう。  勿体ない。  アサのいない人生など意味がない。俺がいま呼吸をしているのはアサが存在するからだ。アサとこの船で出会えたことは運命であったし必然な出来事であったに違いない。俺にはあの子が必要だから。そしてアサも同じように思っていてほしい。  宝物なんだ。本当だったらどこへも行かせたくない。運よく、船と言う隔離された場所で生活しているから、一定の距離以上離れられない。でも、本能のままに行動していたら、誰の目にもつかない部屋に閉じ込めて、二人っきりで生きているだろう。  そうもいかないのが現実なのだが。 「アサが部屋にいないんだ。朝食の当直が終わったら部屋に戻っているはずなのに」 「そう焦らなくても、厨房にいるんじゃないっすか?」 「朝食が終わってから大分経ってるぞ?」  閉じ込めておいた方が良いのかもしれない。現に俺は今アサを探して船中を歩き回っているわけだし。狂った考えだと分かっているが、意外と理にかなっているのかもしれない…… 「厨房じゃなかったら、甲板か談話室じゃないっすか?先ほどショーンさんが見回りしているのを見かけたんで、どこかでアサさんに会っているかもしれないっす」 「お前賢いな!ショーンを探せばいいんだな」 「え?!」 「それじゃあ、仕事に精出せよっ!」 「はぁ」  気の抜けたような声色に背を向けて、俺はショーンを探しに出かけた。背後から何やら船員が言っているのは聞こえたが、今はそれどころではない。悪いな、イザヤ。急ぎの用かもしれないが、俺の優先順位はアサ、アサ、アサで、空いた時間にその他のことだ。特に今日は休みの日だからな。アサ以外で時間を潰している暇はない。  探している時間さえ惜しすぎる。  本来ならば、アサと一日中ゆったりできていたはずなのに。  

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