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第154話 ニールの救世主
「自信もなにも、アサは逃げるような子じゃないんで。船長もミリさんに逃げられないようにせいぜい頑張ってください」
ちょっとひどいことを口走ったか、と思いつつも、内面の焦りがにじみ出てしまった。
謝罪なら後から何度でもするから、船長!俺には立ち話より大事な用があるんだ!
「おっまえ、ふざけんな!ミリが俺から逃げるわけ――」
「あ、船長とニール。廊下で何をされているんですか?」
「ショーン!」
救世主!
と、やや大げさにショーンの名前を呼んでしまった。それだけ嬉しかったってわけだ。
いや、友人の顔が見れて嬉しいとか女々しいことではなく、ただ単に船長との会話から逃げ出せるからって理由だが。
それに、ショーンならアサの居場所を知っているかもしれない。
「タイミングばっちしだな、ショーン」
「なんのタイミングですか?私は見回りで忙しいのですが」
「そういうな。アサを探してるんだ、見かけなかったか?」
「逃げられたのですか?」
「あ?!」
隣から船長が吹き出す音が聞こえた。ツボにはまったらしく、大声で笑いながらヒーヒーと壁まで叩いている。その割に、目の前のショーンは表情を全く変えない。まるでなんで船長が爆笑しているのか分からないと言った様子だ。
まあ、俺も何が面白いのかは分からないが、十中八九、ショーンも同じことを言ったってことが関わっているんだろう。
笑いのツボが分からない人だ。
「逃げられてねーよ。部屋に戻ったらいなかったんだ。朝食の仕事が片付いたらいつも通り部屋に戻っているはずだたのに」
「ってことはアサが、あなたから避難している可能性もあり得るってことですね」
「はは!ショーン、お前天才だな!これ以上無駄に暇つぶししてると奥さんに怒られるから俺は仕事に戻るぞ」
「船長、お疲れ様です」
右手を大きく振り、ゆったりと歩いていく船長を横目にショーンがため息をついた。
「なにをされていたんですか」
「さっき言ったとおりだ。アサが見つからないんだよ」
「だからと言って、廊下で船長と大騒ぎされては他の船員の迷惑です」
「大騒ぎって、そんなデカい声で話してたわけでもないだろ。俺が始めた会話じゃない。あの人が俺に絡んできたんだ」
さっきより大きくショーンがため息をつき、緩く頭を左右に振った。
「自分たちの立場を理解してください。この船に乗っている者にとってあなた方は上司なのですから」
「ショーン、そんな大事な話をしていたわけじゃない」
「話の内容は関係ありません。船の規律が乱れるのでお二人にはもう少し静かに行動してもらわないと」
眉間にしわを寄せ、口酸っぱく言い出したショーンは通常運転と言ったところか。
そんなことより、アサの居場所だ。
船の見回りをしていたこいつなら、アサを見かけたかもしれない。
「規律な。分かったよ、気を付けるからアサの居場所を教えてくれ」
「なぜ私が知っていると思うんです?私は誰かさんと違って、大切な人を監視するような趣味はありませんので」
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