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第155話 ニールの独占欲

「監視って……俺にも監視するような趣味はねーよ」 「本当ですか?」 「く……信じられないって顔すんなよ。現に監視してなかったからアサが見つからないって言うのに」  それもそうですね、と呟くとショーンは緩くほほ笑んだ。 「アサは見かけていないですけど、おそらくケンの部屋にいるんじゃないでしょうか。二人とも一緒に当直終えてましたし」 「犯人はケンか!」  ちょうど近くを通り過ぎた船員がびくりと飛び上がる。  しまった、大声を出しすぎたか。 「犯人って、別にアサがケンの部屋に行ったところで犯罪にはなりませんよ」 「いや、アサが俺のもとに戻ってこなくちゃいけないってわかっていて、俺からアサを奪った罪だ」 「ひどい言いがかりですね」  ケンの部屋にいるかもしれないとなんで先に思いつかなかったんだ!仲良しな二人だ。仕事が終わって一緒に部屋に戻ったに違いない。アサだって、俺のもとに戻らなきゃいけないって言ったはずだ。ケンのやつめ。あいつのことだから、ワザとアサを帰さないように、ああだこうだ言ってアサを食い止めているんだろう。  アサに友達がいることは良いことだ。特にケンは、アサと早くから仲良くなるくらい社交性が高いコミュニケーション能力の塊だ。俺以外の人間とアサが仲良くしているのは何とも言えないが、俺以外に心を許せる人間がいたほうが良いというの分かっている。    いくら、アサの世界に必要なのは俺だけだと言っても、現実的にはそれでは成り立たない。祖国に戻る、という選択肢もあったアサが自分のもとに留まってくれたのだから、俺はアサに一番の環境を提供しなくてはいけないのだ。  家族がいて、友人がいて、慣れ親しんだ言葉と食べ物、文化に囲まれた平和な生活から切り離された16歳の少年に、俺ができること。それは、何をしても悲しみや辛さを感じさせないこと。自分の独占欲を踏み潰してでも、アサに幸福感だけを与えること。遠く離れた家族や友人の代わりになること。  完璧にそれを実現するには、俺は未熟すぎる。  足りない部分があるなら、2倍、3倍にして埋めて行けばいいんだ。  これからもずっとアサといると決めたのだから。 「まあ、ケンが悪戯しているというのもあり得る話ですが」 「だろ?あいつ相当ゲンコツを食らいたいみたいだな。ショーン、お前がかまってやらないからこういうことになるんだぞ」 「この状況に私は100%関係ないと思うのですが」 「どうだかな。とにかく俺は行くぞ。お前も残りの見回り頑張れよ」  ポンと軽くショーンの肩をたたき、俺はケンの部屋へと向かった。やっと答えが見えてきたような気がして、足取りが軽くなったようだ。走るなと船長に言われたばかりだが、心の中で何度か謝罪をし、早歩きなら平気か?と早足で歩くことにした。  やっとアサに会える!と舞い上がった俺は周りを見ることも聞くこともできなくなっていた。

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