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第161話 ショーンの戸惑い

「それで、すってーん!って転んで頭を打ったわけだよね」 「そんなところですね。もっと派手な音がしましたが」 「僕が本当に転んで頭打ったら大変じゃない」 「ええ、実際そうされて昏睡状態の方もいらっしゃいますし」  ゆっくりと床に寝ころび後頭部を床につけたケンが、いたたっと腰を摩った。 「この床、硬い」 「そうでしょうね。頑丈な床でないと困りますし。そんなことよりケン、アサに説明は…」 「ああ!そうだった。アサ、今ので分かった?分かったよね。僕の物まね完璧だったもんね。ニールはね、こうやって、ふんふんふんって歩いてて、すってーん、ゴーン!って頭を打ったの!」 「ゴ…ン…、イタ、イ?」  恋人がこんなに悲しそうな顔をしているのをニールは知らない。今すぐ目を覚ましてアサを慰めてやれと叫びたくなるほど、黒い瞳が涙にぬれている。 「ニールが転んだところにバケツがあったんですよ、アサ」 「バケ、ツ…ア…バケツ?」  両手を動かし空に描かれたそれの形に、ケンと私は大きくうなずいた。  アサの知っている単語は限られている。それでも、仕事や生活で目にするもの、使うものは特に覚えが早い。そういうものなのだろうか。第二言語を習得していない私からすれば、彼の頭の中がどう言葉を吸収していくのか不思議で仕方ない。  ニールが転んでバケツに頭を打って、気を失った。それさえ伝われば、十分だろう。 「ニール、ダイジョブ、チガウ?」  小さく呟かれた問いかけに、ケンも私も返せる言葉がなかった。    自信をもって、大丈夫だ、すぐに目を覚ます、と答えたいところだ。嘘でもいいから、心配する必要がないのだと伝えてあげたい。すぐそばで寝そべるニールの手を握るアサの指先は血の気が感じられず、弱弱しく震えている。 「アサ……あのね、大丈夫って言ってあげたいんだけどね…」 「ウン…? チガウ?」  アサに話しかけるケンの声を聴きながら、腹の底から気持ち悪さがこみあげてくる気がした。人のせいにしてはいけないが、看病がトラウマなのだと吐き出した相手が目の前で倒れている様子は、百歩譲っても気持ちの良いものではない。私の看病は必要なくとも、目が覚めたら、責任を取ってもらわねば。 「おい、俺だ」  雑に扉が叩かれる音が狭い部屋に響く。ゆっくりと扉を開くと船長が立っていた。 「4人もいると狭いな、この部屋」 「5人です、船長。ニールもおりますので」 「ああ、そうだな。まあ、大人しくしてるしこいつは1人と数えていいか分からないがな」 「ちょっとーそれって失礼じゃないの?いくらニールでもけが人だよ!」  そのけが人を数分前まで「バカ」と連呼していたケンがふくれっ面で船長に文句を言う。 「わるい、そうだな。お前の言う通りだ、ケン」  そうでしょー?!っと偉そうに声をあげると、すぐに真剣な顔をした。この子は、強気でおてんばで、いつもふざけているのに、意外と物事を真面目に考えているのかもしれない。守るように握ったアサの片手を放すと、ケンはベッドに眠るニールを指した。 「ニールは、いつ起きるの?」  

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