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第165話 ミリの心配
「と、いうわけで予定を変更することになった。明日の朝には入港できるように準備を整えておくこと。今夜から当直のやつらはこれから個別に話があるから残っててくれ」
談話室に集められた船員たちが、不安そうにセブを見上げている。ニールが怪我をしたこと、意識がないこと、予定を変えて明日一番近い陸地へ入港することを説明したばかりだ。事故の現場にいた船員たちは特に、顔を真っ青にして立ち尽くしている。
「お前らも大人だしな、俺の下で何年も働いてくれてるやつが多いから俺も気を抜いていた。だからな、ここでもう一度安全点検の大切さを意識し直して、けが人が出ないように仕事をしていこうな。事故ってのは慣れてくると余計起きやすいんだよな。まあ、廊下で走るのは絶対禁止だ。ニールには悪いが、あいつを反面教師にしろ」
気を抜いたら危ない、それはこの仕事をしていると何度も言われることだ。初めてセブについて船に乗ったときも同じことを言われた記憶がある。まだ船長ではなかったセブだったけど、何かにつけて僕に助言をしてくれた。
「海にお前を連れてきたのは俺だから」——なんて、かっこつけて言ってたっけ。
「俺からはここまでだ。質問があるやついるか?」
みんなが聞きたいことは同じだろう。視界の端で、うずうずと体を動かすケンと、それを止めるように視線を送るショーンが見える。
ニールは大丈夫なのか、いつ目を覚ますのか。できれば僕たちだって知りたい質問だ。
「おし、何もないなら解散だ。おい、お前ら落ち着いて行動しろよ」
滞在期間は1週間。それ以上予定を遅らせると仕事に支障が出る。
「船長?ねえねえ」
「ねえねえ、じゃねーよケン。礼儀はどうした」
「礼儀なんて美味しくないもん」
「年上は敬え」
「船長がおじいさんになったら敬ってあげるから」
ぞろぞろと船員たちが部屋から去る中、ケンがセブのもとへ駆け寄った。傍に立っていた僕の方にも視線をやると、いつも元気の良い瞳が力なく下を向く。心配で仕方がない、華奢な体がそう叫んでいるようだった。
「船長、ミリさん、僕にできることある?」
「どういうこと?」
「うん、今日明日、アサなしでみんなのご飯の準備はするけど、それ以外でできることないかなって」
「うーん、そうだな。アサの面倒を見てあげたらどうかなぁ?心配しすぎてご飯食べなかったら大変だし」
「なるほど!それなら僕でもできるね、ありがとミリさん!じゃあ、またね船長!」
「おい、だからお前は礼儀ってやつを!」
こんな時だけど、あのケンが少しは成長したんだな、なんて感慨深くなってしまう。初めて、セブに連れられて船に乗ってきたときは、あまりにも幼すぎて頼りなかったのに。
「おい、ミリ」
「うん?」
「一週間だ。たった一週間しかあいつに時間をやれない」
「うん……確かに、たった一週間だよね。でも、一週間で足りるかもしれない。もしそれ以上時間がかかることになったら、その時はその時だよ」
「ああ……」
一週間なんてあっという間だよね。
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