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第171話 ニールの症状

「二人で良い雰囲気なところすまないんだが、今の状況と今後のこととかを簡単に話すぞ」 「私は席を外していた方が良いでしょうか、船長」 「いや、お前も聞きたかったらいていいぞ、ショーン。アサ、お前はどうする?面白い話でもないがここにいるか?それとも小遣いやるから甘い物でも買いに行くか?」  にやっと笑って嬉しそうにポケットの中を探る船長を見ていると、痛くないはずの頭が痛くなっていく気がする。  何が小遣いだ。口元も緩んじまって、だらしがない。 「ン?コジュ、カイ……?センチョ、ナニ、コジュ、カイ?」 「そうかそうか、アサはまだ小遣いをもらったことがなかったか。よし、俺は面倒見が良いからな、アサに小遣いをやろう――」 「船長!何やってるんですか。小遣いとか、本当に…はあ……だらしないオッサンみたいな顔して」 「おい、ニール、それはひどくないか?俺は可愛いアサにふさわしいことをしようとしてるだけでだな」 「小遣い有り無し関係なく、アサをどこだか分からない土地に一人で旅させるとか馬鹿ですか」 「お?馬鹿って言ったな、てめ――」  ヒートアップしていく船長の声に被るように、コホン、と咳払いが聞こえた。突然、どうでも良いことに血が上っていた自分の頭が冷めていく気がする。 「お二人とも、大変盛り上がっているところ失礼しますが、非常にくだらない口論ですし、ここは一応病室です。それにニールも入院している患者であるという自分の立場をお忘れなく。頭に血をのぼらせてしまったら治るケガも治らないかと」  さらっと告げるショーンに、船長と俺は大人しくうつむいた。船長に意味不明な話を吹っ掛けられ、未だに何のことか分かっていないアサは緩く首を傾げる。愛らしすぎるその動作に「死ななくて良かった」など、大げさな言葉が頭を横切った。  頭を掻きながら、すまん、と船長が苦笑する。  アサのことを可愛がってくれてるのは、許そう。船長であり、俺らの父親のような人だ。小遣いをあげようとしていたことも、自分の株をあげようとしているんだか、何だか知らないが、100歩譲って許してあげよう。それよりだ。アサを、立っているだけで悪い虫が寄ってきそうな幼気な少年を、治安の善し悪しも分からない場所に、一人で歩かせようとするなんて。  これだから、アサには俺がついてなくてはいけないんだ。俺が死んだりなんてしたら、この人たちがアサといることになる。そんなことになったら……なんて考えたくもない。 「それで船長、話ってなんですか」 「ああ、ニール、どこから話すかな。まずはお前のことか。ここにお前を連れてきてまず、先生が傷とかを診てくれてな――」  俺を診断した医者から説明を受けたことを、船長が話し出す。  目を覚ましてからも説明を受けたことだが、頭の傷は船での応急処置が良かったのか出血もそれほどひどくなく、病院に着いた時点で止血できていたらしい。転んでバケツに後頭部を売っただけだ。どのくらい傷が深いか今は確認できないが、そこまで派手に切れるものではないだろう。素人の勝手な意見だが、頭の打ちどころが悪くて気を失っただけに違いない。  気の抜けた相槌を返す俺に、頭部外傷で意識を失った場合、脳に傷がつき障害が起きることもある、と重々しく船長は続けた。意識自体は段々と戻ってきても、会話ができなくなったり、手足の動きが悪くなったりすることもあるらしい。

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