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第181話 ニールの腕の中

 ペロリとアサの唇を舌でなぞると華奢な腰が震える。慌てているのか、唇を重ねれば重ねるほどアサが遠ざかろうと身動きをする。そんなことを俺が許すはずはない。やっと、数日ぶりに味わえる恋人の唇だ。そう簡単に逃がして堪るか。 「アサ、舌」 「……デ、デモ、ココ」 「大丈夫だから」  逃げられないように両手でアサの腰を固定する。至近距離で舌を求めると、頬を赤く染めたアサが控えめに唇を割る。先っぽだけ顔を出した美味しそうな舌先を目にした瞬間、魔法にかかったみたいに唇を近づけていた。  驚かせないように優しく触れたはずなのに、舌の腹をなぞると、アサの体が感電したかのように飛び上がった。  と、言っても俺に体を拘束されて動くにも動けない状態だから、ピクピクと飛び上がる動きでさえ封じてしまう。これが、予想外にも熱を持ち始めた俺の下半身に逆効果となり、もっと先を求めたいと欲が顔を出し始めた。 「……ハ、ンッ」  息継ぎのために、唇を離すことを許せるのも一瞬だけ。ガキみたいに余裕が全くなくなった俺は、空気を肺に取り入れようと喘ぐアサの唇を覆った。背中に回した両手に力が入る。隙間を埋めるかのように俺はアサに触れた。  温かい口内を舌で撫でると、応えるかのようにアサが追いかけてくる。絡み合うように舌を合わせると、久しぶりのように感じられる快感が背筋を通った。 「体温が上がってきたな、アサ?気持ちいいのか?」  唇を離し、覗き込むように聞くとアサが恥ずかしそうに顔を伏せた。手のひらで感じるアサの体温が気持ちいい。背中を這うように指先を滑らせると、少しばかり汗で湿った項にたどり着いた。  アサに痛い思いはさせたくないから、優しくいつも触れているつもりだが、今の俺に余裕はゼロだ。項から上に向かってアサの黒髪に片手を通す。若干無理やりだな、と心の中で想いながらも、手のひらに収まってしまうアサの顔を引き寄せた。  文句を言われるなら後で聞くから――  しがみつくように、アサの両手が俺の胸元を掴んだ。何度か唇を重ね、お互いの体温を舌で感じていく。合間に聞こえる色っぽい喘ぎ声が、腹の底に火をつけていく。  もっともっとと、貪欲になり始めた俺は、ふと嬉しいことに気が付いた。俺の両腕で固定されて動きを制限されているのに、アサの腰が揺れている。始めは控えめに返してくれていた口づけも、大胆に求めるような動きになっていった。それだけでも、だらしなくニヤニヤしそうだというのに。アサ自身は今の行為に夢中で気づいていないのかもしれない。 「ンッ……ニール?」  突然動きを止め、唇を離した俺を不思議に思ったのだろう。とろんとした表情で、アサが俺を見つめ返す。赤く染まった肌、どちらのものか分からない唾液で濡れた唇、汗ばんだ髪。俺はものすごく難しいことに直面してしまったのかもしれない。  何も言わずに、目の前のアサを上から下へと観察していく。変態っぽいことをしているのは分かっている。自覚はあるから、今日だけは許してほしい。バケツに頭を打って意識不明の重体になる、なんてどちらかと言えば笑い話になりそうな事故から無事生還したんだ。今日くらいは、恋人をもう一度感じられるという実感をゆっくりとさせてほしい。  

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