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第189話 ミリと観光

「ねえねえミリさん、もうそろそろ戻ってもいいかな」 「どうだろう、もう少し時間空けたほうが良い気もするけど。この辺はもう散歩し尽くしたもんね」    予定外の停泊場であるここは、それほど大きい街でもない。麻色や砂色の低い建物、こじんまりとした市場、自然があふれる公園をぐるっと歩き回ると、僕たちは出発地点である病院に戻ってきてしまった。観光地ではなさそうなのなのは一目瞭然だけど、目に映る色はとても物珍しくて、歩いているだけで十分に楽しめる。  風が吹くたびに、足元で細かい砂がさらさらと音を立てる。夏は乾燥するから口と鼻を覆うスカーフを活用する人が多いのだとセブが教えてくれたのを思い出した。衣服やスカーフに使われている色は、僕たちの国では使われないような色だ。植物や野菜、果物などをすりつぶして着色しているらしい。  ここに来た理由は仲間の怪我なわけだけど、そのおかげで新しい文化に触れられているんだから、おっちょこちょいに転んじゃったニールにも感謝しなくちゃかな。うん、何ごとも前向きに見なきゃだよね。 「これ以上美味しいおやつ食べてたら夕飯が入らなくなっちゃう!あああああ!!!でも、さっき道の向こうに美味しそうなお店あったんだよ、二人とも見た!?」 「私は見てないですね。歩くときは前を見て、と毎回言っているのによそ見をしていたのですか?」  病院で落ち込んで泣いてたケンも今ではすっかり元気満々。どちらかと言うと食欲旺盛だし、いつも通りのケンに戻ったってところかな。両手には散歩中に買った食べ物を持っていて、会話の途中途中にモグモグと食べている。それに3人で一緒に歩いているっていうのに、ぴょんぴょんと飛んでみたり、いきなり右や左に消えて行くから目がはなせないけど……その落ち着きのなさも食いしん坊なところもケン、だよね? 「う……だって、せっかく観光に来てるのに周りを見ないとかないよね?一週間しかいないんだから全力で文化を吸収するべきじゃない?ミリさんもそう思うでしょ?」 「うーん、確かに僕も色々新しいものが見れて楽しいなって思っていたところだけど、僕たち観光できてるわけじゃないよね」  「そうですよ、これは緊急停泊。ニールの怪我の治療のためにここに来ているのですから。それらしい行動を」  姿勢よく僕の横を歩くショーンは、いつも通り。私服に着替えても良いのに「落ち着くので」とか言って制服のままで、まじめな顔をしてまじめなことをケンに言っている。その姿はまるで、ケンの先生と言うか、指導係と言うか。僕やセブより「親」的なことを言っている気がする。でも、これは僕の勘だけど、それは愛情がある故の態度だと思うんだよね。本人に聞いたことないから確証はないけど。  まあ、僕も観光気分で風景とか楽しんでいたわけだし、ケンに注意できる立場ではないんだけど。少しは肩の力を抜いたほうが、ショーンも気楽なんじゃないかな。  なんて。気を抜いたショーンとか想像できない。敬語を使わないショーンとか……俺派なのかな、それとも僕?いつも「私」って言ってるけど。気を抜いたときとか、独り言でもあんな感じなのかな。今まで考えたことなかったけど、確か初めてあったときからずっと変わらないもんな。

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