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第190話 ミリの貫禄

 ゆっくりと病院への道を歩きながら二人の会話に耳を傾けていると、ケンの雄たけび、じゃなくて叫び声?あ、違う、これが通常の音量だから、話し声か。耳が裂けるような話し声が響き渡った。 「そんなこと言ったってぇええええ!見て!あそこも!あそこも!こっちもだよ!見たことのないような食べ物が僕たちを呼んでるんだよ。こんなに美味しそうな香りがするのに無視するのかわいそうじゃない?」 「そろそろ戻りたいって言ってたのはあなたではなかったですか?」 「ショーンつめたい!確かに、早くアサと合流したいよ。でも、少し待てって言ったのはミリさんとショーンでしょ!僕は我慢してるの!」  はいはい、と頭を撫でてショーンはケンを落ち着かせてる。  何度も言うけど、普段からケンは賑やかな子だ。ここでも例外でなく大声をあげるから、周りの人たちが驚いて振り返っている。  そのたびにごめんなさいって気持ちを込めて僕は手を小さく振るけど、それで伝わっているのかも分からないし、微妙なところだ。あとでセブにどうやって「ごめんなさい」っていうか聞いてみようかな。あ、あと「こんにちは」とか「ありがとう」とかも。少しくらい知ってた方が良いよね。あ、でも数日で出航するから、教えてもらっても忘れちゃうかなぁ。  船に乗ったら、いつも通りの生活が戻ってくるんだよね。ここ数日バタバタしてたから何だか「いつも通り」が懐かしいな。アサもずっと不安でいっぱいだったはずだから、ホッとできたほうが良いに決まってる。 「恋人が意識不明の状態からやっと目を覚ましたら、外野なしで二人きりで過ごしたいと思わない、ケン?」 「こ、恋人って!二人はそんなんじゃ……ううん、そうだけど、恋人同士だけど!」  食べ歩きしていた食べ物を食べ終わったのか、ケンは何もついていない串を片手に振り回した。  危ない。こういうところがまだ子供だなぁ。周りを見る、周りに気を配るって僕たちも、ショーンも何度も言っているのに。なかなか治らないみたい。ブンブンと振られる手を掴んだショーンも眉間に深い皺を寄せていた。  串やら包み紙やらをケンから受け取ったショーンは、何も言わずに自分のポケットへとしまっていく。    その流れを見ているだけで、僕はちょっとポカポカした気分になれた。 「ああ、流石のあなたもあの二人が恋人だって言うのは分かってらっしゃったんですね」 「う……だって、ショーン。あんなに毎日ラブラブされてたらどんなに鈍感なひとでも気づくよ」 「あの二人は仲いいもんね~、ケン」  ほのかに頬を赤らめたケンが僕のほうを向いて、うんうんと頷く。口の隅についたソースを拭ってあげたくなったけど、それはお世話役にお任せしたほうがいいかな。お?僕って意外と気を利かせてるんじゃないかな。 「船長とミリさんもだよ!あ、でも二人はちょっと違うかも。貫禄のある夫婦って感じ」 「貫禄!?やだ、それだと僕が年取ってるみたい」  どこでそんな言葉を覚えてきたか知らないけど、ケン!セブはともかく、僕はまだそんなに年取ってないよ!

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