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第192話 ケンの身長

「あ、せんちょーーー!」 「ケン、病院ですから静かに」 「せんちょ~」 「ぷぷ、そんな小さく言ったら聞こえないよ。セブは耳がいい方だけど、若者ではないからね」  静かにしろって言ったり、静かすぎるって言ったり、ミリさんもショーンもどっちかにしてよ!  病院に戻ってくると、数メートル先に船長が歩いていた。一応お休みの日だからか、着心地の良さそうなシャツに黒いズボンを合わせている。背が高いせいもあって、こういうシンプルな格好も似合っちゃうんだよな。悔しいけど。  親代わりとは言え(育ててもらったのはすごく感謝してるけど)、背丈は全く似なかった。分かってる。だって遺伝子レベルで言えば僕たち赤の他人だしね。顔だって髪の色だって違うけど、できることなら少しだけでもいいから背丈を分けてほしかった。  僕だって、そんなにチビってわけではない。周りの人間がデカすぎるだけだ。  環境が悪いんだ。2メートル超えるような男たちがたくさんいる船で育ったから、きっと神様が「これ以上場所を取る人間がいてもしかたないでしょう」とか言って僕の成長を止めたに違いない。  あ、でも。  アサは僕より背が低いし、痩せてる!だけど、まだ若いからもう少し伸びるかもなってニールが言ってたな。  やだな~僕は今のアサがいい!だってだって急に2メートルとかまで伸びたらどうしよう!?可愛いアサがいかついアサになっちゃうよぉぉぉ!そんなのいやだああああああ! 「ケン?ミリさんと船長、先に病室に戻られるそうですよ」 「う!?あ、え、もう行っちゃったの?」 「ぼーっとされていたので、放っておこうとおっしゃっていました。どうします?私たちも病室に顔を出しましょうか。それともこのまま宿泊先に戻っても大丈夫ですよ」  なんだか考え事をしているうちに時間が経っていたみたい。船長と合流したミリさんが僕を放置するのはよくあることだから、今更驚かない。ラブラブだからね、あの二人。きっとこのあと二人でラブラブしに行くんだよ。  何をするかって?うー、具体的なことはわからないけど!多分ほら、一緒にご飯食べて散歩して仲良くするんだよ!ラブラブ未経験の僕じゃわからないことだよ!ふん! 「アサに会いたいし、病室に戻ろうかな。面会時間って確か夕方くらいに終わるよね?」 「ええ、5時くらいだったと思います」 「そうしたら!今日は!僕の部屋でお泊りでいいかな!?!?」  うひゃぁぁ!昨日のアサはとてもじゃないけど、ニールから引き離せるような状態じゃなくて。病院の人たちに船長がお願いしてアサだけニールの部屋に泊まらせてもらったんだ。普通はそういうのはダメなんだって。でも今回は特別だ、って船長からラム酒を1瓶受け取ったお医者さんは言っていたらしい。  そういうの「わいろ」って言うんだよ、僕知ってる。  

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