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第194話 ケンの邪魔しないで!
「アサ、お前はどうしたい?」
「ボク?ヨル、ココダメ?」
「ああ、ダメだ」
「ア……ゥ……」
もしかすると、アサはこのことを今の今まで知らなかったんじゃないかなって、僕はこの時気づいたんだ。さっきまで穏やかな表情をして僕たちの会話に耳を傾けていたのに、「ダメ」と言われた途端に視線が膝へと降りてしまった。
目元が見えないし、何も言わなくなっちゃったから本人が何を考えているのかは分からないけど。まだアサは僕とお泊り会ができるんだよってことを理解してないんじゃないかな!
ってことで、ニールは置いといて、アサを直接誘っちゃおーじゃないの!
「アサ、僕――」
「船長、俺が今日退院するってのもダメなんですかね?」
えええええええ!?僕が口開いた瞬間にニールが変な提案しだしたよ!?
僕のお泊り会計画の邪魔しないでくれない?!?急に何!?邪魔者!
「ケン、顔が煩いですよ」
「かおっ?!それはちょっと失礼過ぎない?」
「ふふ、確かに顔が忙しいね」
「ミリさんまで、ひど!」
船長も真剣な顔して、うーんとか悩まなくていいから!この人、元気そうに見えるけど頭打って意識不明の重体だったじゃない!それに、僕のお泊り会の邪魔しようとしてるんだよ?アサと夜更かししてワイワイするチャンスを僕から奪おうとする悪者だよ!
「あらら、今度は唸りだしたね、ケン」
「大体考えてることは分かるので放っときましょう、ミリさん。あ、紅茶お替りいりますか」
「気が利くね、ありがとう」
船長と言葉を交わしているニールはしきりにアサの頭を撫でている。それは「大丈夫、大丈夫」っておまじないが混ざっているような手つきだ。下を向いたままのアサが何を考えているか未だに分からないけど、きっと一人になることが不安なんだ……それかニールと離れている間に何かが起こるかもしれないって心配なんじゃないかな。
「お前の気持ちもわかるけどな、ニール。俺も同じ立場だったら、許可とか無視して速攻ミリと宿とってるよ。だけどな、今お前に無理されると俺があとで困るんだよな。お前にはこれからも船に乗っていてほしいし、こんなとこで怪我が悪化して死んだりしたら、一生恨んで憑いてきそうじゃねーか」
「死——!?いや、死ぬ予定はないんですけど、船長!?無理はしないんで、そこを何とか。この通り、後遺症もないくらいピンピンしてるんで。アサのためと思って!」
「俺で何とか出来るならしてるよ。生憎俺は医者でも看護師でもないからな」
うん、その通りって感じな船長の言葉に、必死だったニールも大人しくなっちゃった。大きな大人二人が、ギャアギャア言い合ってたからか、アサも伏せていた顔を上げて困った顔して僕のほうを見つめ始めた。
分かるよわかる。この人たち僕にはうるさいだの黙れだの言っといて、言い合いだすと驚くほどうるさいんだよね。しかもその上、何を言っているか分からなかったら混乱しちゃうに決まってる。その顔も可愛いからぎゅーってしたくなっちゃうんだけどね!
さすが僕の弟分!
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