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第195話 ニールの条件
「先生とも少し前に話したが無理だ。出航日まであと5日くらいなんだから大人しく休んどけよ」
「そんなー」
「情けない声を出すなよ、ニール。アサは夜になったら病院を出て行かなきゃいけないだけだ。日中は邪魔にならなければ好きなだけ居ていいって先生が言っていたぞ。感謝するんだな」
「はあ」
いや、これはがっかりするだろう。シュンっと悲しそうな顔をしてしまったアサには、前もって話をしておけばよかった。 と、言っても盛り上がってしまって話をしている場合ではなかったわけだけど。
ケンの宿泊先にアサが泊まれば安心かと思って始めた会話だが、どう考えても俺が退院してアサといた方が安全な気がする。何の安全ってそりゃあ、アサの正気とか健康状態、それに俺の精神状態もだ。
大騒ぎしまくるケンといたら色々な意味で疲労困憊になってしまうに決まってる。
「じゃあ、アサは僕とお泊り会ね!」
「ケン、ただしな、静かにしねーと外に追い出すからな」
「船長やばんー!外って!僕が風邪ひいたらどうすんの!?」
「馬鹿は風邪ひかねーって言うよな、ショーン?」
船長の言う通り、「静かにする」が条件の一つだな。他の誰と部屋を共有するより、ケンと寝泊まりするのが朝にとって一番なことは目に見えている(騒音問題は置いといて)。
「まあ、そうおっしゃっても、少し前にケンも熱で寝こまれましたから。そこまで馬鹿ではないのかもしれません」
「ああ、そうだな。一論あるな」
「ちょっと二人とも失礼過ぎない!?」
「真実だろ、ケン?」
ベッドから手を伸ばし、項あたりでまとめられたアサの髪を弄りながら、3人の会話に耳を傾けた。アサに触れていると、なぜか心が落ち着いていく。
「うう、熱は出したけどさ!だからってバカバカ言わなくたって」
「はいはい、悪かったな。馬鹿じゃないもんなお前は」
「船長、全然反省してない!」
ミリさんは、というと、何も言わずに楽しそうな顔をしながら話を聞くことにしたようだ。仕事中じゃないからか、いつも1つに結われている髪はおろされている。本人の動きに合わせて、サラサラと動くそれは腰に着くほど長い。
このまま伸ばせば、アサの髪もそのくらい長くなるのだろうかと想像すると色々と楽しくなってくる。もちろん、それを口に出したらミリさんと船長に引っぱたかれそうだから、心にとどめておくが。
「それじゃあ騒いだら一食抜きでどうだ?」
「一食ぅぅぅ!?」
「それなら絶対約束守るだろ?」
「守るぅぅぅ……」
勢いの良かったケンは段々と大人しくなった。食事を抜かれたら相当困るらしい。さすがは船長。ケンの扱い方に慣れすぎてるな。
「俺もお前が周りに迷惑をかけないように、静かにするって約束できるならアサを泊まらせても良い」
「ニール、本当に!?」
「もちろん、本人がどうしたいかによるけどな」
「うんうん!もう一回聞いてみる!アサ、あのね!お願いがあるの!」
「ナ、ニ?」
これでアサが嫌だとは言わないだろうなと思いながら、俺は必死にアサに説明するケンを見守った。
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