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第207話 ショーンは集合する

「おい、お前ら、一度集まってくれ」    船長がニールを連れて現れたのは、出港時間が近づいたころだった。荷物はすべて船に積み込まれたはず。あとは片付けが終わっていれば完璧だったけれど。まあ、船にさえ乗っていれば、あとは何とかなるだろう。外は晴れているし、特に大きな問題もなく出航できるはず。   「はいはいせんちょー!呼んだー?ってあれ、僕一番乗り?」 「残念だな、俺らが先だ」 「どう見ても一番乗りではありませんね。なんで私たちが見えなかったのか不思議でありませんね」  通常運行だ。ケンはたまに周りが見えなくなるし、大きな勘違いもする。船長に呼ばれ、片付けを一時中断し談話室に向かうと、ちらほらと船員たちが集まり始めた。  この後そのまま当直が始まる私を含め数名は制服を着ている。久しぶりの仕事服に腕を通すと、気のせいか気分が引き締まる気がした。 「ケン、ヨンマン」 「よ・ん・ば・ん、な、アサ。可愛いな、そういうとこも」 「んあ!?ニールだ!退院おめでとう!!!歩いて大丈夫なの?」 「おお、ありがとうな。運動不足で腰が痛くなってたからタイミングよく船に戻れてよかったよ」  あと数か月は様子を見なければいけないらしいが、今のところ後遺症もないらしく、ニールは元気そうな顔をして船に戻ってきた。あんなことがあったせいか、心配しているのか、アサはぎゅっとニールの手を掴んでいる。 「そうなんだー????腰痛とかもうおじいちゃんだね。アサ、ちゃんと労わってあげてね」 「イタワ、ン?イタイ?」 「いや、俺は大丈夫だよ、アサ。ありがとう。ああ、やっと日常に戻れるって感じがすんな」 「うんうん!陸に泊まれば買い物し放題だけど、船がやっぱり一番だよねぇぇぇ!!」 「ケン、そんなに腕を振り回すと周りの迷惑ですので」  興奮し出すと止まらないところもケンの悪いところだ。 「注目!おい、ケン、黙れ。」 「うえええ!?待ってしゃべってたの僕だけじゃないんだけどぉぉぉ!?」 「一番うるせえのがお前なんだよ」  パンっと手を叩くと、世間話をしていた船員たちが船長を囲むように集まり、口をつぐみだす。ケン、という例外を除いては。 「うぇぇぇ」 「ほら、静かに」 「ミリさんまでぇ!」  船長の隣に、制服を着たミリさんが立つ。納得いかない、とケンは頬を膨らませて仏頂面をした。どう見ても年相応な仕草でないような気がして仕方ないが、それは今のところ重要なことではない。そうなのだが、何度目の当たりにしても頭を振らざるを得ない。   「えーっと、あ、サイも来たね。問題ない?」 「はい!遅れてすみませんっ」 「まだ始まってないから大丈夫だよ」  ほほ笑んだミリさんに、サイがペコペコと頭を下げる。走ってきたのか息を荒げ、うっすらと汗をかいているようだ。私の横に来ると、小さな声で「すみません」ともう一度頭を下げた。 「ってことで始めるぞ。みんな、今回は緊急停泊で予定が変わってしまったが、指示通り動いてくれてありがとう。一週間しっかり休めたか?」 「はーい!」 「いい返事だな、ケン」 「まあ、ケンがしっかり休んでるのはいつも通りか。そんなことより重要な知らせだ。今日から新しい船員が加わる。自己紹介を」

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