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弱虫は嫌い、と最低な言葉で彼の唐突すぎる告白を振ったのに、空丸は『それならせめて傍にいさせて』と熱っぽい言葉で食い下がった。
それを断れるわけもなく。
次の日から空丸が登下校と昼休みに現れて瑚和にまとわりつくようになった。
一月ほどが経ったが、空丸は未だに瑚和の傍を離れない。
昼食には手作りのサンドイッチを持ってきてくれて、少しでも口をつけると本当に嬉しそうに笑ってありがとう、と言う。ありがとうと言うべきなのはこちらの方なのに。
気遣ってくれている気持ちがこそばゆかったけど嬉しかったし、誰かが作ったものを食べられることが幸せだった。繋がっている感じがして温かくなる。
空丸は自分が作ったものを誰かに食べてもらえるのが嬉しいと言っていた。その相手が自分でいいのかと瑚和は思う。しかし彼の食事のおかげで確実に体に活力がついていて、生きやすさを感じているのも事実だった。体調は相変わらず悪いけれど、物事を前向きに見られるようになった気がする。
心細くなったり胸が空いたような気持ちになったりすると、彼はすぐにそれを察して抱きしめてくれたり、心配そうに顔を覗き込んだりしてくれた。
会話はなくても彼の隣はすごく心地よかった。
桜の花は散ったけど、桜の香りはずっと瑚和の傍にあった。
始終べったりのこの人狼を嫌だと思ったことはない。
しかし自分がβではないというとは、未だに言うことができないでいた。
αの空丸がこんなにまとわりついているにも関わらず瑚和をβだと思い込んでいるなら、平常時にαと一緒にいても問題はないということだ。それには安堵した。
しかし発情期と考査が被ることはやはり避けられない。
考査まであと一週間もない。
時が刻一刻と迫ってきていることに息が詰まりそうになるほどの圧力と焦りを感じていた。
地に足がつかない不安定な気持ち悪さがじわじわと背中を這ってくる。
「……瑚和、気分でも悪い?」
控えめに横に並んで歩く空丸の顔を、瑚和はため息まじりの顔で見上げ首を振った。
彼に対してもいくつか気に食わないことがあった。
昼休みはいい。
でも登下校まで一緒にするのは正直言ってものすごく注目を集めるので気が重い。周囲の登校中の生徒を見ても、αとβが歩いている姿を全く見かけない。まるでタブーだというほどに。視線が痛い。
青い小鳥が飛んできた。この小鳥ももはや顔馴染みだ。名前もついた。
「あ、おはよう……ララ」
ララは返事をするように囀る。
これも一緒にいたくない理由。
空丸は動物を引き寄せる。移動しているにも関わらず、ララのような小鳥や猫や犬などに囲まれた。一匹一匹に挨拶するので、それがさらに周囲の目を引きつける。
目立ちたくないのに。ひっそりと静かに、なんとか日常に溶け込みたいのに。普通に生活したいのに。これじゃあ台無しだ。
いつまでも動物に構ってばかりの空丸にうんざりして、瑚和の歩調は自然と早くなる。しかし大きな体格とリーチの長い脚のせいで距離はさっぱり広がらない。
「僕、瑚和の気に障ることした?」
「してないよ」
空丸が悪いのではない。
空丸はなにも悪いことはしていない。
周囲の見る目が悪いのだ。
それは分かっている。
でもこのもどかしさを周囲に向けることができなくて、結局空丸に当たっている。
そんな自分も嫌だった。
「でも、なんか刺々してる」
「少し放っておいて」
校門が見えたので、瑚和は空丸を置いて走った。かなり目立っている……もう限界だ。
後ろから声が聞こえてきた。
「瑚和、待って……!」
待って。その一言で体がぴたりと止まってしまう。
「……なに」
振り返って眉を顰めたら、それを跳ね返すような笑顔で空丸が言った。
「また昼休みにね」
「……ばか!」
体が熱い。最悪だ。あんまりエネルギーを消費したくないのに。
省エネで日陰でじっとしていたいのに。
日常が崩れる。
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