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百合の香りの立ちこめるベッドに体を乗せられると、露出した肌から伝ってシーツの衣擦れにすら全身に快感が駆け抜け息を震わせた。
空丸が心配そうに瑚和の顔を覗き込んでいる。いつもの優しい彼の表情だった。だが確実に瑚和の媚態に充てられて余裕がなくなっているのが手に取るように分かる。
「ソ……ラ……」
力なく手を伸ばすと、空丸はおずおずと大きくて滑らかな手で掴んでくれる。ふれあうだけで甘くとろけそうなほど鮮烈な気持ちよさに瑚和は嬌声を漏らした。
空丸が瑚和の首筋に顔を埋め、瑚和の誘惑する香りを吸い込むように息を吸う。
「あぁっ……」
それだけで瑚和の下肢の間から零れるように蜜が染み出していった。
「ほんとに、僕で、いい………?」
瑚和は思わず空丸を見る。
彼も狂いそうなほどの淫らな欲を押さえつけているのが一目で分かった。
「ほし、い……!」
なにが欲しいのか自分自身でも分からない。
これからなにが始まるのかも、正直よく分からない。
でもこれだけは言える。
「ソラ、がいっ、ソラ……じゃない、と、いや……っ……」
熟れた瑞々しい果実のような唇から、切なく苦しい悲鳴のような声が漏れる。
縋るように彼の白くたくましい体にしがみつくと、口腔に彼の舌が滑り込んできた。
「んっ! う、んん……」
自分のものよりずっと肉厚で長い舌が、歯列や上あごをなぞり、喉の奥まで犯していく。
唾液が絡まる感覚と一緒に、ぴちゃ、と止まらない音が響いた。
息が上手くできない苦しさにシーツにかかとを何度もすりあわせる。その苦しさすら欲を煽って瑚和の体を甘く痺れされていった。
空丸の舌が深く入り込むと、瑚和の紅い唇が質量に比例して大きく開いていく。
力で瑚和の頤が反れ、浮き出た首筋に空丸の指が滑っていった。
「ん、ぐ、っ……っん……んん――っ、っ……!」
名残を惜しむように舌が艶かしく引き抜かる。
繊細な口腔全体を這っていく淫靡な刺激に、瑚和の痩身は仰け反り胸骨が切なく浮き出た。
「はぁっ、あ、ん、ッ、は、はッ……ぁ、ふ……」
ぽっかり開いた口に冷たい空気が入り込んできて視界が鮮明になっていく。茹だり蕩けていく瑚和の頭が、白く美しい毛皮で優しく包み込まれた。
「瑚和……綺、麗……」
何度も名前を耳元で囁かれ、口中を犯していた舌が、艶めかしい音を立て今度は首筋を執拗に舐めていった。
「ひゃ、っ、う、ぅう、……ソ、ら……ソラ……っ、あ」
まるで大切なものに愛撫するようなしおらしさすら感じ、瑚和は自分の体が溶けてなくなるのではないかと錯覚してしまう。
空丸の舌が瑚和の頬を滑った。
「傷……かさぶたに、なっちゃ、ってる……」
哀切に満ちた声と一緒に、ごめんね、という言葉が落ちて、彼は傷口を癒すように舐めた。
「ぁあっ、あ――ぅ、あ、あ、あぁ……!」
心に泉のように湧き出る切なく甘美な悦楽を言葉で言い表せずに胸が苦しい。
瑚和は眉をひそめ、目を薄く開きながら、彼の舌の感覚に翻弄されていった。
その舌がじわじわと下に下がっていくのを感じ、瑚和は目を見開く。涙が葉の上で踊る雫のように跳ねた。
「あ、だ、め、そこ、ぃ、っ……」
舌がすでにぴんと勃っている瑚和の胸の小さな粒を捏ね回す。片方は指で嬲られ、硬度を増すにつれ充血するように色づいた。
人狼の鍾乳洞のように美しい牙がちくちくと尖りに当たる度に、瑚和は見開いた目を細めながら悩ましげに眉を下げる。
「は、う……ぅ、そ、らぁ……!」
空丸が与えてくれる刺激の全てが、皮膚の上で悦びにも似た快楽の奔流になって下肢の間と腹の中に重くて甘い痺れになって蓄積されていく。
「瑚和……気持ちいい……?」
「ふあぁあ、っ……!」
唇からは切ない喘ぎが漏れ、背中が弓なりに反れるほどシーツと腰骨の上辺りにもどかしい隙間ができた。
その隙間に空丸の自由な一方の腕が入り込んでくる。
たくましい腕一つで瑚和は簡単に上体を起こされた。
彼の細腕が重力に従ってシーツの上を滑り落ちていく。
下衣が寛がれベッドの下に落ちると、触って欲しいと本能を支配していた欲望が露わになった。瑚和の下肢の間は張りつめたように膨れ上がり、今にも弾けそうに先端の窪みからは止めどなく透明な粘液が溢れ、艶かしく震えている。
「瑚和……触るよ」
「――っや! あっ――っ、っ!」
すっと指先でなぞられただけで瑚和は呆気なく精を吐き出した。
極まった余韻で体はびくびくと痙攣を繰り返す。自分では制御できない体の動きだった。体が勝手に動いている。
「な、に、これぇ……っ、う、ぁ、あ……っ」
空丸の腕の上で目を閉じ、口を開けて荒く呼吸をする。
「もしかして、初めてだった……?」
「く、ぅう、っん……ッ」
わけも分からずなぜか涙がぶわ、と溢れてしまう。自分の体の変化についていけず、漠然とした怯えに襲われていた。
「おか、し、い、の……変っ、なの……、いつ、もと……違、っ……の、ソ、ラ……へ、んっ、ぅ……助け、てぇ……う、っ……こわ、い、ぃ……ッ!」
空丸は宥めるように瑚和の頬に鼻梁を擦り寄せ、優しく頭を撫でてくれる。
「大丈夫……怖くないよ、気持ち、いいんだよ……瑚和……」
チェロのような声……。感じたことのない強い淫欲と慄きに支配されていた心が凪ぐ。
彼の優しい声が染み渡るように広がった。
「……気持ち、っい……?」
「うん……瑚和は今ヒートが来てるんだよ、変じゃない。これでいいんだ……おかしくない……痛くないでしょ、ほら……気持ちいい」
衰えずに主張を始めている瑚和の屹立を空丸はそっと握り込んで扱き始める。
「あぁッ……」
先端をぐりぐりと嬲られ、くびれを執拗に擦られるとぞくぞくという甘い痺れが駆け巡った。
鋭敏になっている感覚のせいで体が大きくびくびくと、彼の腕の上で跳ねていく。
顔を歪めながらたまらず腕を彼の首に絡めた。ふわふわとした肌触りが温かい。
これが……?
「気持ちいいね……? すごく気持ちよさそうだよ、瑚和……可愛い……」
空丸は瑚和が激しく感じている欲と言葉を結びつけるように丁寧に瑚和に語りかけていった。
……こんないやしい俺をソラは可愛い、って抱いてくれる。
優しくしてくれてる。
受け入れてくれてる。
……おかしくない……?
きもち、いい。
「あ、あっ、ああ……っきもち、い……っ、気持ち……いいっ!」
「そうだね……ここ、もっと気持ちいいよ……僕の指の感覚を追って……」
瑚和の下肢の間の双丘を抜け、彼の指は止めどなく大量の淫らな蜜液を零し続けている後孔をなぞり始める。
「ふあ、あ、あ、……っ……!」
「すごく濡れて良い香りがするよ。きもちいい、って、瑚和の体、悦んでる証拠」
ぷつ、と秘めた蕾を拓かれた。
「っ……! く、ぅあ……!」
彼の指が襞の一つ一つを解すように内壁を解していく。
感じたことのない感覚に戸惑っていたら、体がふわ、と空丸のしっぽに包み込まれた。
「どんどん飲み込んでいく、息して、瑚和、上手……」
「……はっ……はぁっ、ソ、ラ……っ、う……」
彼の指が増え、後孔が広がるのを感じる。ぴちゃぴちゃと自分の体から発せられているとは思えない水音に体が、もっと甘く抗いようのないものに絆された。
粘液を溢れ出す襞が勝手に指を歓迎し、さらに蜜をこぼしていくのが自分でも分かる。
痛くないどころかもっと奥に触れて欲しくて体が疼くばかりだ。
指を引き抜かれシーツの上に寝かせられる。淫口は涎を垂らすように蜜液を零した。
距離ができても瑚和は空丸の首に絡めた腕を解かない。触れている手から、腕から……全身から、彼の官能的な香りを吸収したくてたまらない。熱を感じる度にそれが甘い愉悦になって満たされ、涙と嬌声に変わった……。
全然、足りない。
まだ、まだこれじゃ……。
「ソラぁ……っ、もう、ちょ、だ、い、っ、入れて……!」
意味も分からないのに口が勝手に先走る。
その言葉に空丸の目の色が明らかに変わっていった。
瑚和は彼が優しさの奥でずっと燻っていた獣欲に火をつけてしまったのだ、と悟る。
空丸は悩ましく顔を歪め、懇願するように瑚和に言った。
「瑚和、そんなこと、言われたら、僕……止まんなく、なっちゃう、よ……」
痛烈な言葉によろめく。
白い毛皮の上からでも分かる酷く欲情した顔つきに、今にも食われそうだと背筋が粟立つ。
それは恐怖からではなく……これから自分に襲い来るだろう激しい快楽を予見しての興奮だった。
その声と表情だけで体が火照り気を失いそう。
顎をぺろり、とひとなめされる。
「優しく、した、かったけど……どうしよ、瑚和……っ、だめ、かも……僕……」
空丸が瑚和の眼前で舌なめずりをして、自らの下半身を露わにした。
瑚和は視線の先にある空丸の屹立した肉槍に思わず息を呑む。その巨躯にふさわしい巨大な陰茎は、触れなくても熱く固く芯を持っているのが分かった。
「……いい……?」
目にしただけで瑚和の肉の隘路には粘液が迸り、切なくヒクつき、それを自分の中に受け入れようとしている。
耳元で囁いた彼にぎゅっとしがみつく。
「き、てぇ……っ」
声とほぼ同時に瑚和の隘路の内奥が空丸の暴力的な質量を持った肉槍にどす、と穿たれた。
「っひゃぅっ――……っ!」
空丸の重さで両脚は淫らに開き、のど元が浮き出、口は声を漏らさずともはくはくと開く。仰け反った腰骨には、瑚和の陰茎から吹き上げられた白い粘液がぱたぱたとこぼれ落ちていった。
頭が明滅してちかちかする。
「ぁあ――っ! ……ああ、っ、あ、あぁーっ……うぁああっ――っ……!」
涙が溢れて頬を伝った。内臓を押し広げる質量と熱さに、内襞が歓喜するように収斂し、限界を超えてビクビクと強く脈打ち、また空丸の雄をぎゅう、と絞る。形がまざまざと感じられ、その刺激にまた隘路に蜜が迸り、内奥で暴れ狂いまた収斂を繰り返す……止まらない終わらない快楽の波に耐えられることができない。
「いやぁああっ、あぁああ! あ、あぁっ、うあぁああぁ――……っ、あーっ!」
今までの刺激では比べ物に快楽に体が捩れ、自然と空丸の性器から逃げ出すように足を蹴った。
しかし逃げた以上に空丸が瑚和の体を引きずり戻す。
追い込むようにさらに腰を落とし、深く性器を捩じ込んだ。
ぐ、と亀頭球まで肉環の内側に穿たれ、奥を穿つことはあれど決して抜けない頑丈な空丸の猛りにシーツを強く握った。
質量と熱をまざまざと感じ、あぶくのように淫欲が湧いてきて、それが奥をきゅんと絞らせる。
「ぁあぁあっ! だ、めぇ……っ! いやぁっやああぁっ、っ、ああぁー……!」
どうすることもできずに甘く叫びながらぎゅっと目をつむり、首を振って咽び泣いた。それでも空丸は抜いてくれない。瑚和が泣くのは苦痛ではなく快楽に酔っていることを知っているかのようだった。
「中でずっとイってるね……すごく締め付けてくるっ……泣くくらい気持ちいい……?」
「もっ、い、ぁ! めぇ、っ、おかしくなるぅ、っ! あっ、あつい、のっ、っはな、し、てぇええっ――!」
「まだ……ッ離さないよ……!」
空丸の力強い手が、瑚和の両手シーツへ張り付けにする。覆いかぶさられると瑚和の姿はすっかり包み込まれ、体は簡単に抱き寄せられた。
「うっ、あぁ……あ、ぁ……!」
最奥を穿っていた空丸の雄が、ずるずると引き抜かれ腸壁全体に擦れていった。仰け反る背筋に暴れるように快楽が走り大きく跳ねる。
内奥を突く刺激と火傷しそうに灼熱の肉塊がなくなって、荒い呼吸を整えるように空気を求めていたのも束の間、再び空丸の剛直が瑚和の淫道を貫いた。
「――っ! う、ぁ、あああ!」
赤い唇から、かふ、と唾液が零れた。瑚和の性器が三度目の熱を吐く。
一度では終わらず、二度も三度も重く深い抽挿が繰り返され、その度瑚和の視界に火花が散った。
あまりの快楽に失神しそうになると、空丸が行為の激しさとは全く裏腹の優しい声で、混濁した瑚和を引き戻すように名前を呼ぶ。
「瑚和……」
空丸が内奥を穿つ度に繋がった瑚和の肉環が彼の雄の形に倣って広がり、律動の度にぐぽ、ぐぽ、とやらしい音を立てた。
「ソラぁっ! ……そ、ら、ッ、ソラぁあ、あっあぁあっ、ふあぁあ……」
容赦のない突き上げの中で縋るように手を伸ばせば、空丸は指の一本一本を慈しむように伸ばして指を絡めてくれる。
汗をなめとるようにこめかみに舌を這わされながら、体位を腕一つで簡単に変えられ、腹部の内襞をこそげるように擦られる。
ごり、という何かが抉れる音がして、瑚和の頭は真っ白になった。
「っ、あ、あ、あっ、ぁあああー!」
瑚和が激しく反応したのを見逃さず、空丸は執拗にそこをごりごりと責め立てる。
「ぁあああっ、う、っ、うぁ、っんぁぁあーっ――!」
背面に空丸の重みを感じ、強烈な快楽に、シーツと腰の間で窮屈そうに擦れていた瑚和の雄が再び絶頂を迎えた。
絡められている手にぐっと力がこもり、肘をベッドに立てながら、艶めく紅い唇の間から舌を出してよがる。
端から唾液が糸のようになって零れていった。
「ここ、気持ちいい?」
「わかんな、あ、っ、ぃいっ……! っぅう……ッ!」
顎を掴まれて顔を空丸の方へ向けさせられた。分からない分からないと涙を零し蕩ける視界の中で、空丸の顔だけが鮮明で、かっこよくて、すごく愛しく思える。
唇を重ねられた。
「瑚和、好き……すごく、大、好き」
好き。
どく、と大きく瑚和の中が絡まるようにきゅう、きゅん、と蠕動を繰り返す。
「ひぁ、あ……ッ、っ……!」
精悍な空丸の顔が、余裕がないように歪んだ。
「う、搾り、取られそ……!」
好き。たったその二文字が、永遠と瑚和の頭にこだました。
好き、好き……好き。
空丸の顔をぐっと引き寄せて擦り寄る。
「俺、も、っ、ソラ……っ、好きっ、好きぃっ! す、きぃ――……!」
空丸が目を見開いた。
腸壁の奥の、行き止まりのさらに先の、子を成す部分にまで空丸の雄々しい肉塊が貫いてくる。
頭が何度も真っ白になった。
「瑚和……ね、ぇ、僕の、番に、なって……!」
思いがけない言葉が酩酊した頭の中で優しい灯りのようにふわ、と留まる。
「ここ、噛ませて……噛みたくて、おかしく、なりそう……!」
濡れ羽色の短い襟足から覗く瑚和の透き通ったような細いうなじを、空丸は熱烈に、味わうように舐めていく。
「っあぁあっ――……」
淫欲とはまた違う幸福が滾るような感覚が、そこから全身に駆け巡った。
後ろからぎゅうと抱かれたと思うとそのまま抱き起こされ胸の尖りを弄られる。重力がもっと奥を穿つのを助けるように瑚和の体にかかっていった。
「お嫁さんになって……ずっと、一生……大切にする……!」
それがどういう意味なのか、淫猥な気持ちに支配されていた瑚和にはちゃんとは分からなかった。
だけど、ずっと一生、誰かが傍にいてくれて、それがもしソラならば、他はもうなんでもいい、と思った。
「かん、で……ッ!」
それ以上に生まれる以前からすでに在った体の声が、瑚和の全てを支配するように声が洩れる。
「噛んでっ、ソラっ、ソラのものに、して……ぇ、っ!」
ずん、と今までにないほど最奥を穿たれた瞬間、肉塊よりもっと熱いなにかが瑚和の中で弾けて広がった。
そのなにかを瑚和の中が悦ぶように迎え入れ、襞が収斂し、脈打つ。
「ふあ、あ……」
これが欲しかった、と体が全身で幸福を訴えていた。甘さに支配された体が激しく痙攣しながら空丸の胸に背中から倒れる。
亀頭球でしっかりと瑚和の中に固定された空丸の肉棒はとめどなく精を噴き出し、瑚和の腸内を満たし続ける。身悶えしても絶対に抜けずに瑚和の内奥を穿ち続けていた。
「ぁ、ああ……っ、あーっ、ぁ、つ……いっ……お腹っ、いっ、ぱ……いっ、ひぁああっ……」
汗でしっとりと濡れた瑚和の全身が、彼を支える空丸の肌に吸い付くように触れ合い、二人は息を重ねた。
「大好き、愛してる……瑚和」
空丸の声が耳元から聞こえた後、瑚和は自分のうなじに、彼の偉大な犬歯が突き立てられたのを感じた。
「ぁぁあぁあっ――……っ……!」
迸る熱と絶頂で、瑚和は幸福感と一緒に意識を手放した。
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