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体を揺らす手。
僕を起こしたのは、啓介だった。
「……おい、横峯」
声を押し殺しつつ、啓介がしっ、と立てた人差し指を口元に当てる。
「今から夜襲かけるぞ」
その一言で、目が冴える。
これが話し合いの結果か……、と倫太郎の寝床を見れば、そこに彼はいなかった。
啓介に導かれ、部屋を抜けて隣を覗く。
もう暗闇に、目は慣れていた。
あどけない表情で眠る、五人の子供。
その寝姿を見ている内に、僕は罪悪感に苛まれた。
医療に携わる者として。人として。
絶対に通ってはいけない道だ、と。
「……焦んな。すぐに起きやしねぇから」
そう言って啓介が取り出して見せたのは、持薬である睡眠導入剤。
一体これを、いつ、何処で、どうやって彼等に飲ませたというのか。
壁伝いに、啓介が侵入。
その手には、刃渡り二十センチ程のサバイバルナイフ。
気配を消し、眠る子供の傍らに忍び寄れば、何の躊躇も無くナイフを左胸に突き立てる。
隣で眠っていた子供が、目を覚ます。
驚いて逃げる彼を捕まえ……頸動脈を掻き切り、背面から心臓を貫く。
……はぁ、はぁ、
啓介の、荒い息づかい。
刃先から血を滴らせるナイフ。
それが大きく空を切った。
その刹那──血飛沫が、僕の顔にかかる。
生暖かな、血……
……息が、止まる……
逃げようとする子供達を引っ捕らえ、次々となぎ倒す。
その上に跨がり、喉元を掻き切り、心臓を突き刺す。
足下に広がる……血、血、血──
あまりに惨い光景。
声を発さない彼らは、啓介にとって好都合だった。
小さな命が、一瞬にして消える。
殺伐とした空気。
鉄を含んだ、生臭いにおい………
吐き気がする。
震えが、止まらない。
脳が痺れ、体中の血管が全て凍てつく。
しかし……余りにも現実離れしていて。
悪い夢でも見ているのかと、錯覚さえした。
「……よし、次の部屋だ」
その隣の部屋を覗けば、男が三人眠っていた。
先程と同様。啓介が血濡れたナイフで男達の心臓を突き刺し、念入りに首を切り落とす。
殺戮を終えた啓介が、ゆっくりと此方を振り返る。
「………女は、何処だ」
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