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第61話 帰路 Ⅱ
「佐倉 今日は本当にありがとう」
「とんでもございません
では また明日 お迎えに上がります」
「ああ 頼む」
佐倉は創に視線を移すと ニコッと笑いかけて、軽く会釈をしている
創もつられて頭を下げていて、そのやり取りは側から見ていても、とても微笑ましいものだった
佐倉が走る去るのを見送ってから 創の手を取り、目の前にあるコンビニに入ったのだが、購入したい物を思い浮かべて 隣にいる創をチラッと見た
「…創 何か食べたい物とか飲みたい物とか見て来て良いよ⁇」
「え⁇」
「ね⁇」
「…ううん 僕 大丈夫」
うん そう来るだろうとは思ってたんだけど、お願いだから行って来て欲しい…
創の前で コンドームの箱をカゴに入れるのは、やはりかなり抵抗がある
「…やっぱり 行って来ます」
俺の微妙な空気を察してくれたのか、創は俺から離れると 奥の方へと行ってくれた
その隙に俺も サッと移動すると、目当ての物を 二箱カゴに放り込み、その上に日用品を適当に入れた
目標を達成した俺は 創の姿を探し、デザートコーナーの前に立っているのを発見すると、後ろから声をかけた
「何か食べたいのあった⁇」
「…これ」
創の手には いちご牛乳プリンが握られていて、その可愛いチョイスに 口元が緩む
「他は大丈夫⁇」
俺の問いかけに 首を縦に動かしたのを確認すると レジへ向かった
順番が回って来て 物が 一つずつ取られていく様に、ハッとなって創を見ると、レジ横のディスプレイに目が奪われている様で、ホッと胸を撫で下ろした
会計を済ませると 直ぐ横からマンションに入り、エレベーターに乗った
無機質な機械音だけが、小さな箱の中に響いている
『奥まで弄って〜って』
先程言われた言葉が頭を過り、無意識に手に力が入ってしまっていた
あの男は 創の本当の名前も知らない
その程度の奴なんだと 自分に言い聞かせた
その事だけが唯一 俺がアイツよりも、創の事を知っているのだと 自信を持って言える事だった
昨日 創がその事を話してくれていなかったら、俺の今の精神状態はどうなっていたか分からない
「……ゆうご⁇」
不安そうに俺を見上げる創を見て、自分の手の力にハッとなった
何やってんだ 俺は‼︎
慌てて笑顔を作ると 咄嗟に手を離してしまった
「ごめん‼︎ 痛かったよな⁉︎」
「ううん 僕 大丈夫」
創は 遠慮がちに 俺の中指から小指までの三本を握ってくれて、伏し目がちな表情から どこか妖美な雰囲気を感じる
蕩ける位に抱きたい
そんな妄りがわしい事を 横で俺が思っているなんて、きっと創は 想像もしていないと思う
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