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第80話 会食 Ⅱ
ゆうごに お父さんと会って欲しいと言われてから、ゆうごと似た雰囲気の人か 厳しそうな感じの人を想像していた
でも ドアの向こうから現れた人は、ゆうごとは あまり似ていない人だった
勿論 顔立ちはすごく整ってるんだけど、格好良いというよりは 綺麗という言葉が合っている様に感じた
ゆうごよりと大きめな瞳に スッと通った鼻筋
整えられたロマンスグレーの髪色が、雰囲気とすごく合っていて 思わず見惚れてしまった
でも ゆうごの隣にいる僕を見ると、驚いた様に目を見開いていて 隠れたいという衝動に駆られた
「父さん 今日は」
「この子がそうなのか⁉︎」
ゆうごの言葉を遮る声に ビクッと体が跳ねてしまい、思わずゆうごの服の裾を ギュッと掴んだ
「蓮より若いんじゃないのか⁉︎」
「あ…はい…15才です」
れんって…誰…⁇
もしかして、ゆうごの本来決められていた相手なんじゃ…
知らない名前に 不安な気持ちが ピークに達してしまい、益々強く服の裾を握り締めていた
「…15」
呆れた様な ゆうごのお父さんの声
やっぱり僕は、ゆうごに相応しくないのかな…
でも もうゆうごから離れるのはどうしても嫌で、その事を考えると 僕の意思とは関係なく 唇が震え始めた
「…名前は⁇」
「あ えっと」
「私は その子に 訊いてるんだ」
ゆうごに背中を叩かれて ハッとなり顔を上げらと、ゆうごのお父さんは 真っ直ぐ僕を見つめていて 無意識にゴクリと喉が鳴った
「…あ…」
名字というものを 先日病院で 数年振りに書いた
しかも母方の性は 馴染みが薄く、書く手が 一瞬止まってしまった程だった
緊張状態の今も 咄嗟に父方の名字を言いそうになってしまい、口籠ってしまった
そんな僕を ゆうごが心配そうに 見つめていて、何度か小さく呼吸を繰り返した
「…は…初めまして…鞍月…創です」
「初めまして…桃坂 佑人です
…創君は 息子のどんな所が良いと思ってくれているのかな⁇」
『厳しいけど 優しい』
ゆうごのその言葉が蘇って来て、今日まで過ごした日々が 走馬灯の様に頭の中を駆け巡った
横にいるだけで良いって言ってくれた事
手を繋いで歩いてくれた事
どんな僕でも好きだって言ってくれて、大切にされていると嫌でも実感させてくれる…
一緒に居ると心がポカポカと温かくて、経験は無いけど 日向ぼっこってこう言う感じなのかなって思う
「…優しくて……お日様みたいな所です」
「…そうですか」
ゆうごのお父さんは、一人分のお皿がある方の椅子に座ると 僕達にも座る様促してくれた
「先ずは 最低限の学歴」
ゆうごのお父さんの言葉に顔を上げたのは 二人同時で、この時の僕は 狐につままれたような顔をしていたと思う
「それと 番になるのは、せめて16才になってからにしなさい」
「父さん…」
ゆうごの言葉には 安堵の色が含まれていたが、僕はただ 呆然とその言葉を聞いていた
「段取りは しっかりしなさい
ちゃんとしないと お前を誑かしたなどと、心無い事を言われて傷つくのは 創君の方なんだからな」
「はい‼︎」
「学校は 今 どうしているんだ⁇」
「これから 通わせようと思ってます
塾の講師をしている友人が、日中 家庭教師をしてくれる話があって」
そうなんだ 初めて知った…
「高校は 出来れば敬聖学園にと思ってます」
「そうか また決まったら報告しなさい」
「はい」
僕の話なのに どこか置いてけぼり感がして、不安になってゆうごを見上げると すごく嬉しそうに笑っていて、また僕まで つられて笑ってしまった
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