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第86話 家庭教師 Ⅲ〜side物井〜

…これは…一体どういう事だ⁇ 一番最初に渡したテストは 全て満点だった為、もう少し大丈夫なのかと 更に上の学年のテスト受けさせ続けた結果、中学卒業レベルなら ほぼ問題ない点数が取れていて、思わず頭を掻いた 桃の話では、恐らく中学は 殆ど行っていないと思うとの事だったが、間違えているのは 数学や英語の応用問題などばかりで 暗記系に関してはほぼ満点だった 「…創君 勉強得意なのかな⁇」 にこやかにそう聞くと 創君は困った様に俯き、落ち着かないのか右手で左腕を摩っている 「…得意…というか…僕 一回でも見たり聞いたりした事なら 覚えていられるんです」 瞬間記憶能力 話に聞いた事はあったが 対面するのは初めてだった だがこのテストの点数を見ると 寧ろ納得出来る 「そうなんだ スゴイね 応用問題さえ出来れば 大丈夫そうだし、今年も受験したみたら⁇」 「…受かりますか⁇」 「敬聖はレベル高いけど この感じならイケると思うよ」 俺がそう答えると あまりにも嬉しそうに笑うものだから、年下に興味の無い俺が 一瞬見惚れてしまった 「よろしくお願いします」 「うん それじゃあ、間違えた所から始めよっか」 「はい」 「取り敢えず 国語と社会は大丈夫そうかな⁇」 「はい…あ」 「ん⁇」 何か聞きたそうにしているが 何処と無く恥ずかしそうで、俺は笑顔を作りながら 首を傾けた 「…あの」 「分かんない所あった⁇ 何でも聞いてくれて良いよ⁇」 俺がそう言うと 創君は意を決した様に 顔を上げ、しどろもどろになりながらも こんな問い掛けをしてくれた 「ゆ ゆうごって…どういう漢字書くんですか⁇」 「え⁇」 訊いて直ぐ 耳まで真っ赤にしている ずっと もじもじしていた理由が分かり、その可愛らしさについ フッと笑ってしまった 直ぐに近くにあった紙に“佑吾”と書くと それを創君の前に差し出した 「これで“佑吾” 確か 自分をしっかり持って、困っている人に 優しく手を差し伸べる子になる様にっていう意味だったと思うよ」 「…佑吾」 「名は体を表すって言うけど 本当その通りだよね」 俺の言葉に こくんと首を縦に動かすと、愛しそうに その二文字を見つめている その横顔は 幼い顔立ちからは 想像も出来ない程の色気を放っていて、あの桃が絆されたのが 何となくわかった瞬間だった

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