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第93話 陥穽

「…ふぅ」 塾の仕事も終わり 明日は休みという事もあって、少しだけ息抜きをしようと 久し振りに行きつけのBARに足を運んだ 「あれ⁇ 物井じゃん‼︎ 久々‼︎」 名前を呼ばれ振り返ると、心の中で ゲッ…と言洩らしていた 何とか笑顔を作ったが 隣に座られた瞬間、顔を顰めてしまった自覚がある 「高校卒業して以来じゃね⁇ お前 同窓会とか全然来ないし」 「…はは」 お前がいるから 行きたくないんだよ… 相変わらず この高校時代のクラスメイトは、αだというのが信じられない様な見た目をしている 夕方 桃に会ったから 尚更そう思う 比べるのも失礼な程だ 「お前 今何してんの⁇」 「…塾の講師とか…家庭教師とか…」 「マジかよ‼︎ じゃあお前もそのうちテレビとか出んの⁉︎」 「…いや…出ないと思うけど…」 「何だ つまんねぇの てかお前 相変わらずノリ悪いな」 そう思うなら 話かけてくんなよ そして目の前から消えろ コイツの所為で 俺は桃に会うまで αが大っ嫌いだった 人を貶すわ 虐めるわ αの自分は何よりも偉くて 正しいと思っている 風貌から察するに 運送会社を経営している父親の脛を 今も齧りまくってるんだろう 「それでさ〜」 それにしても ペラペラとよく喋る 高校の時 コイツに イジメられていた奴を殴れと言われて、いい加減にしろと反論してから 俺も散々な目に遭わされた その時の事が蘇って来て 気分は悪くなる一方だった 「悪いけど、俺 帰るところだったから」 財布を取り出そうと 鞄の方に手を伸ばし、視線を逸らしてしまった しかし コイツから目を離してはいけなかったんだと、数日後 俺は思い知る事になる 「いや まだ半分以上残ってんじゃん‼︎ 残して帰るとか マスターに失礼だろ‼︎」 俺達のやり取りを苦笑いして見ていたマスターは、俺の様子がいつもと違うからか、気にしないでとばかりに 首を横に振っている しかし 確かにと思った俺は グラスを手に取り、残りを 一気に飲み干してしまった 「…ん⁇」 目の前がぐらりと揺れた様な気がして 額に手を当てた 自分の酒の限界値は 勿論分かってるし、まだそこに到達する量は 飲んでいない 「あれ⁇ 物井酔った⁇ 大丈夫かよ〜」 肩を掴まれて吐き気がした 触るなと言いたいのに 上手く言葉が出ず、そのまま強烈な眠気に襲われた俺は 最悪な奴の目の前で意識を手放してしまった

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