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第100話 搜索 Ⅱ
創が勝手にどこかに行く訳ないと信じている
でも あの今にも消えてしまいそうな儚さは、一緒に暮らしている今も健在で 帰って居なかったらどうしようと ドアを開ける度にいつも思う
あの笑顔に迎えられる度 体を重ねる度に、創は 自分の物になっている様な気でいた
だから 物井からの電話は 調子に乗っていた自分への罰が下ったのだと思った
「物井‼︎」
「桃‼︎ 抜け出して大丈夫なのか⁉︎」
「取り敢えずは…」
タクシーの中で既に出していた鍵を差し込み、物井と一緒にマンションの中に入ると エレベーターのボタンを 無駄に何回も押した
「…桃」
よっぽど切羽詰まった顔をしていたんだろう
物井が 落ち着けと言わんばかりに 俺の肩に手を置いた
「…悪い」
創の姿を確認するまでは どうしても落ち着かなくて 無意識に脚が動く
やっと来たエレベーターに乗り込み、指定の階に降り立つと 自宅の扉を勢い良く開けた
「創⁉︎」
何度もその名前を叫んだが、リビングにも トイレにも 脱衣所にも、何処にも創の姿は見当たらず 気持ちばかりが焦ってしまい グシャリと前髪を握り締めた
「…桃 コレ…飲みかけみたいだけど…」
物井に言われてカウンターを見ると、今朝 一緒に淹れたココアが そのまま置いてあった
僕も出来る様になりたいと言って、俺のコーヒーまで淹れてくれたのに 黙って出て行くなんて やはり考え難い
「…創」
誘拐…⁇
でも 佐倉や物井以外は 対応しなくて良いと伝えてあった
それに警戒心はどちらかといえば強めな方だろう
そんな創が 不審者を招き入れたりするだろうか…⁇
それに 俺の携帯に何の連絡も無いし、創に渡した名刺も 家の電話の横に置いたままになっている
金が目的なら 確実にそれは持ち帰るだろう
「取り敢えず 管理人室行こう
防犯カメラに何か映ってるかも」
「ああ…そうだな…」
そう物井に促され 玄関に戻った時、創の靴が置いてある事に気が付いて 思わず手に取っていた
「桃⁇」
「…創の靴」
「え⁇」
物井の疑問に答える余裕は無く 無言で靴箱を開いた
やはりそこには 創の靴が綺麗に並んでいて、改めて物井の方に向き直った
「靴が全部ある
やっぱり 自分で出て行ったんじゃないと思う」
「誰かに連れ去られたって事か⁇
だったら 目撃してる人とかいるかもしれないな」
「…ああ」
何度も頷く行為は 自分を落ち着ける為にしていた様に思う
早く 創をこの腕の中に取り戻したくて、俺は強く手を握り締めていた
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