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第30話 感冒 Ⅲ

もうさ 本当に俺 駄目かも 創が俺の手に擦り寄った瞬間 本気で襲いそうになった あの細い手首を掴んで 桜色の唇に吸い付きたい 全身にキスして 快感に歪む顔が見たい なんて こんな事を病人に思う俺は 最低だなって思った 創は俺がこんな事考えてるって知ったら 軽蔑するだろうか 「…ゆうご⁇」 シャツの裾を引っ張られて ハッとなった 創に視線を戻すと 不安そうな顔で俺を見ている 勝手に バツが悪くなった俺は、買ってきた物を取り出して 誤魔化す様にそれらを並べた 「た 食べやすそうなの 色々買ってきたんだけど 何か食べれそうか⁇ フルーツとかアイスとか あとスポーツドリンク買ってきたから こっち飲もうな」 ベッド上に置いておいたゼリーとお茶は手付かずだった為 一度冷蔵庫にしまおうと思い 手を伸ばした そんな俺の 一連の動作を 創は ジッと見つめている 「…ゆうごの…お粥食べたい…」 創の言葉に俺は何度か瞬きを繰り返した後 ニッと笑って、創の頭を撫でた 「ん… 今 温め直して来るな⁇」 「…うん」 温めている間に 買ってきた物もまとめて冷蔵庫に入れ、自分自身を少し落ち着ける為に何度か静かに深呼吸をした 「…よし」 大丈夫‼︎ と気合を入れ お粥を持って創の元に戻った 「起きれるか⁇」 「うん…」 返事とは裏腹に ふらりと後ろに倒れそうになったのを寸前の所で支えると 創が申し訳なさそうに眉を下げた 先程の気合いが 打ち砕かれそうになったが グッと堪えて何とか笑顔を作る 「先に水分取った方が良いかもな」 そう言ってペットボトルの蓋を外すと 創に手渡した コクコクと飲むのを見届けている間にお粥に息を吹きかけ、飲み終えた創の口元に レンゲを近付けた 「…いただきます」 「ん」 何の気なしに行った行為だったが、パクッと創が 口に運んだ瞬間 俺の方の体温が 急上昇してしまった 「…おいし」 「そ そっか‼︎ 良かった…」 ああ… やっぱり笑顔が 天使過ぎる… 俺は自分自身に咳払いをすると 創にレンゲを渡した 「…ゆうご…お仕事は…⁇」 「ん⁇ ああ 午前中の仕事 早目に片付いてさ 二時間位 居れるからな」 なんて 本当は佐倉に頼んで 色々調節してもらったんだけど… そんな事創が知ったら 気にしちゃうだろうし、俺も創と居たかったから これで通そうと思った 「…そうなんだ」 創はお粥を食べながらも はにかんだように笑っていて、その姿に 胸の辺りが キュンと締め付けられた 「あ 薬‼︎ 水取ってくるな‼︎」 完食してくれた器を持ってキッチンに行くと、水をグラスに注いだ 此処が 気持ちを落ち着ける場になりつつある事に 最早苦笑いしか出ない 創に薬を飲ませると また横になる様に促し、ポンポンと頭を撫でた 「大丈夫か⁇ 他に何かして欲しい事ある⁇」 俺がそう問い掛けると 創は驚いた様に目を見開いたので、何か変な事を訊いたのかと 首を傾げてしまった 「…だい…じょう…ぶ…」 途切れ途切れに答えた創は 何故か涙を堪える様に笑っていて、俺はその顔に 暫く魅入ってしまっていた

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