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第125話 癒人
心細さから布団に包まっていると、息を切らして佑吾が帰って来てくれて、ホッと胸を撫で下ろした
「お待たせ…遅くなっちゃったけど、傷 消毒しようか」
「うん ありがとう…」
消毒液が頬に触れると、ピリッとした痛みが走ってつい顔を顰めてしまった
「大丈夫か⁇ 痛いよな⁇」
「ううん…大丈夫」
「…傷…残らないと良いけど」
「……え」
きっと 僕を思って言ってくれた言葉なのに、あの人に言われた事が 勝手に脳内再生されて鮮明に頭の中に蘇ってくる
『ねぇ 桃坂 佑吾だって、その可愛いお顔が 好きなんでしょ⁇
傷だらけになったらさ、もう見向きされないんじゃない⁇』
『そ〜くんの唯一の取り柄』
僕は自分の容姿が好きじゃない
今まで 嫌な思いをする事の方が多かったから
『俺 創に一目惚れしちゃったから…』
それでも佑吾が綺麗とか可愛いって言ってくれるのは素直に嬉しかった
でも あの人の言う通り、この顔じゃなくなったら佑吾は…
「創⁇ 大丈夫⁇」
「…うん」
一度出た疑問はどんどん膨らんで、僕の心を侵食していく
不安な気持ちに押し潰されそうになったその時
佑吾が僕を抱き寄せてくれた
「…どうしたの⁇ 何か思う事があるなら聞かせて⁇」
「…あ」
僕が言い淀んで俯くと優しく頭を撫でてくれて、また目の奥が熱くなった
僕はもう、佑吾のこの手が無くなる事が何よりも怖い
「…佑吾はさ」
「うん…」
緊張で手が汗ばむ
疑問を肯定されたらと思うと、心が騒ついて喉の奥が熱くなった
「…創」
優しく名前を呼ばれて、僕を抱き締めてくれていた腕をギュッと握り、意を決して口を開いた
「…ゆ 佑吾は…僕の顔に傷があったら…もう僕の事…好きじゃない⁇」
「え⁇」
早鐘みたいな胸の鼓動の所為で 佑吾の声がよく聞こえない
自分で言っておいて泣きそうになっていると、佑吾は僕の頬に優しく触れてくれた
「もし 創の顔に傷が残っても嫌いになんてならないよ」
その言葉に俯いていた顔を上げると、優しく微笑む佑吾と目が合った
「ほ 本当…⁇」
「うん…でもコレは彼奴が付けた傷だから、なるべく消したいかな…」
その言葉に心底安心した僕は 佑吾の胸に顔を埋めて涙ぐんでいる顔を隠した
そんな僕を慰めてくれるかの様に、佑吾は僕の頭をまた撫でてくれた
「俺ね…今までそれなりに人の事好きになって来たつもりだったし、自分なりに大事にもしていたつもりだったんだけど…
なんか…創は 全然違うんだよね」
「⁇」
言葉の意図が掴みきれなかった僕は、少しだけ顔を上げると首を横に傾けた
そんな僕を見て 佑吾は小さく笑っている
「こんな風に…心の底から誰かを守りたいって思ったの…初めて」
「…佑吾」
胸の奥が ギューッとなって苦しい
でもそれは嫌な感じの苦しさじゃなくて、どこか心地良く、こそばゆい感じがした
「あの時 あの場所で…創が コッチを見た瞬間にね、すごい衝撃があって 自分でもビックリした
ああ…絶対この子が俺の番の子だって…そう思ったんだ」
先程バラバラと落ちた本達は、佑吾の手によって いとも簡単に戻されていく
小さく縮こめていた体が光に包まれる様な そんな感覚が確かにして、溢れ出るモノを堪える事が僕には出来なかった
「…佑吾」
いつもの僕だったら何も言えず、ただ体を寄せるくらいしか出来なかったと思う
でもこの時だけは、自然と佑吾への気持ちを伝える事が出来た
「…佑吾…僕の事……見つけてくれてありがとう…」
言い終える頃には 僕の顔は涙で ぐちゃぐちゃになっていて、そんな僕を見て 佑吾はまた優しく微笑んでくれた
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