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第147話 面影 Ⅲ〜side佑吾〜

創とリビングに入ると、隣で小さく「…わぁ」という声が聞こえてきて 創の視線を辿った その先にはグランドピアノが置いてあって、未だに艶を保っているその姿に 少しだけ切なくなった 昔は学校から帰ると いつも母さんがあそこで弾いていて、満面の笑みで『佑吾 お帰り』って 出迎えてくれたっけ… 「ピアノ…母さんの趣味だったんだ」 「そうなんだ…」 今は 誰も弾かなくなってしまったピアノ 俺も蓮も 母さんが亡くなった後は、習う事も弾く事も辞めてしまっていた 「ひょっとして、創君はピアノが弾けるのかな⁇」 「…え…あ」 父さんの問い掛けに 創は少し口籠っていたが小さく頷いた 「……はい…少しだけ」 「そうなの⁇ 何か弾いてもらえたりする⁇」 純粋に創のピアノを聞きたかった俺がそう提案すると、創は困った様に眉を下げた 「え…で、でも」 「是非 聞かせてくれないかな  佑吾も蓮もピアノは続かなくてね…  今でも調律はしてあるんだが、音色はずっと聞けていないんだ」 創は父さんの言葉に 困惑の色を浮かべていたが、俺が笑顔で頷くと ピアノの前の椅子に腰掛けた 白くて細い指は 鍵盤に映えてとても美しい 足をペダルに乗せたところで 創はまた俺を振り返った 少しだけ頬に赤みを帯びたその表情は 好きだと改めて告白されている様な気分になってこそばゆい 俺が笑顔で首を傾げると、創はふわりと 花でも咲きそうな柔らかい表情をしていて、あまりの可憐さに 口を半分開けて見惚れてしまっていた 創は改めてピアノに向き直ると 静かにリズムを刻み出した その選曲に 俺だけではなく、父さんや蓮も驚いたと思う 創が弾いたのは エドワード・エルガー作曲の 愛の挨拶 母さんが 一番好きだと言って、いつも弾いていた曲だった

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